検非違使(けびいし)に問われたる木樵(きこ)りの物語
縄のほかにも櫛(くし)が一つございました。草や竹の落葉は、一面に踏み荒されて居りましたから、
きっとあの男は殺される前に、よほど手痛い働きでも致したのに違いございません。


辺りが一面に踏み荒らされていた理由は明らかさ:

多襄丸(たじょうまる)の白状
、――女はそれを一目見るなり、いつのまに懐(ふところ)から出していたか、
きらりと小刀(さすが)を引き抜きました。わたしはまだ今までに、
あのくらい気性の烈(はげ)しい女は、一人も見た事がありません。
もしその時でも油断していたらば、一突きに脾腹(ひばら)を突かれたでしょう。
いや、それは身を躱(かわ)したところが、無二無三(むにむざん)に斬り立てられる内には、
どんな怪我(けが)も仕兼ねなかったのです。が、わたしも多襄丸(たじょうまる)ですから、
どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀(さすが)を打ち落しました。