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つづき

■カントールのパラドックス: しかし,さらに大きいサイズのグラフとなると,少し注意を払う必
要がある.たとえば,例 1.17 で挙げた,集合全体を頂点とし関数を辺とする圏 Set などである.
ところが,
「集合をすべて集めたものは集合ではない」
ということは集合論の創始者カントールが既に気づいていたことであり,カントールのパラドック
スとも言われていた.とはいえ,集合という日常用語に引きずられるとパラドックスに見えるもの
の,「集合」という用語はあくまで数学用語である.つまり,形式的には,特定の数学的概念を「集
合」と読んでいるに過ぎないから,「集合」を「机」「ビール」「X」などの別の名に差し替えてもよ
い.そして,実際には,
「X をすべて集めたものは X ではない」
というパターンがある.

■大きさのスケール: さて,圏のテキストでは,「大きい」「小さい」という二元的な区分けをする
ことが多い.この「大きい」「小さい」という二元的な考え方は,矛盾のひとつの回避法というだけ
であって,絶対的なものではない.矛盾の回避法はいくらでもあり,どれを選択するも自由である.
そして,この二元的な区分けにおいては,集合とクラスの区別等と言った話が出てくるが,その
直感的な意味は理解しにくい.それなら「大きさ」という概念を導入してしまった方が,「大きい」
ものにも大きさのレベルがあり,「どういうものを考えるとどれくらい大きくなるか」などが明確
になって良いだろう.何事もゼロかイチである,というように白黒付けてしまうと,誤解を招きが
ちである.あらゆる概念に対して,白と黒の中間の階層があると認識して,とりあえずグラデー
ションを付けて理解しようと試みることが重要である.

つづく