つづき

§ 8. 補遺,あとがき,参考文献
8.1. 圏の大きさについて
圏に関するテキストを読んだとき,「大きい」「小さい」「局所的に小さい」などの修飾語を見か
けたことがある人も多いかと思う.これはある種の矛盾の回避のために導入されるものであるが,
初学者はあまり気にしないのがよいと思う.このようなものは実際に矛盾にぶつかってはじめて
有り難みがわかるので,まずは何度か矛盾してみるのがよい.つまり,「『大きさ』に気をつけない
と,矛盾することがある」ということだけ認識しておいて,何かふとしたときに矛盾が発生したら,
「あ,これはきっといわゆる『大きさ』ってやつのせいだな」と意識できるようであればよい.矛
盾に達して初めて,「大きさ」の詳細について学べば十分である.ここでは,圏の大きさに関して,
あまり数学的詳細に立ち入らない概説を与える.

まず,圏とは,多重有向グラフに少し構造の付加されたものであったが,確かに圏の理論に現れ
る多重有向グラフはちょっとだけ大きめである.たとえば,本稿で扱うグラフであれば,そのかな
り多くは無限グラフである.とはいえ,数理論理学に近い分野の人であれば,グラフ理論と聞け
ば,無限グラフ(多くの場合には非可算無限グラフ)に関するグラフ彩色の問題であるとか無限ラ
ムゼー理論などを最初に思い浮かべる人もいるだろう*1.

このように,グラフの研究において無限
グラフを扱うことも珍しくはない.実際のところ,人間には有限はむずかしすぎるし,無限の方が
有限より簡単なことは多いので,とくに無限を恐れる必要はない.

*1 たとえば,筆者の周辺だと有限組合せ論を研究している人よりも無限組合せ論を研究している人の方が多いので,グ
ラフといえばもちろん無限グラフを指す.これをサンプリングバイアスという.

つづく