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圏論化
https://talk.hyuki.net/04/
圏論と学びをめぐる往復書簡
No.04
圏論と通常の数学
土岡俊介→結城浩
2020-01-14

圏論化
三つ目は、やや専門的な話になりますが、通常の数学の対象(集合論的対象)の 圏論版を考えることが重要であることが知られていて、圏論化(categorification)と呼ばれています。 そして、定理の主張に圏は登場しないものの、 圏論化の手法でしか証明が知られていない通常の数学の定理があり、 数学の深い結果とされます(ここでは紹介できませんが)。

圏論化の例として、アーベル圏(いくつかの性質や構造をもつ圏のこと)は 線型空間の圏論版(の一つ)と思うことができます。

圏論化の文脈では、もはや圏論は「多様な数学的対象や数学的事実に対して抽象度が高く統一的な表現を与える」言語というよりは、「特定の数学の定理の証明を行うための素材」または 「特定の数学の定理の本質をあぶり出すための概念装置」となっています。 数学では、(フェルマーの定理のような)小学生でもわかる 自然数の特定の性質を証明するために、さまざまな概念を導入しますが、 それと変わらない営みだと言ってよいでしょう。 齋藤恭司さんが、監修者まえがきで「何ゆえに 圏という概念を導入する必然性があるのか、当時の私には不明であった」への 答えとして挙げられている例も、この視点に通じるものがあると思います。 あるいは『連接層の導来圏に関わる諸問題』(戸田幸伸、数学書房)を 眺めてみると、さらに雰囲気を垣間見られるかもしれません。