遠アーベル幾何学の進展 星裕一郎 数学'74巻1号2022年1月
より、IUT関連記述抜粋

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6 アルゴリズム的遠アーベル幾何学と単遠アーベル幾何学
2節での基本‘予想,の内容は,遠アーベル代数多様体はその基本完全系列から‘復元’される, とい
うものであった.そして, その定式化である2節の相対遠アーベル性や3節の絶対遠アーベル性は,
どちらも,二つの(遠アーベル的であろう)代数多様体'X'と'Y'が用意された際の,それらの間の
同型射と, それらの基本群の間の連続同型射との関係を問題としている.
つまり, この定式化による‘遠アーベル性'の研究とは,大雑把に言えば,
適切な代数多様体のなす圏に制限された'π1'という関手の充満性や忠実性といった性質の研究であると要約される.
そして, この場合,議論にしばしば登場する‘群論的,という用語は,
‘基本群の間の任意の連続同型射で保たれる,という性質を意味する.
望月は,基本‘予想'における‘復元'とは何か, という問を改めて見つめ直し, [60], {61], [63]に
おいて, ‘アルゴリズム的な観点による遠アーベル幾何学',
そして, より狭義な枠組みとしての単遠アーベル幾何学(mono-anabelian geometry)という考えを提唱した.
その上,上述の‘充満性・忠実性の観点によるこれまでの遠アーベル幾何学'を双遠アーベル幾何学(bi-anabelian geometry)と呼び,
これら‘二つの遠アーベル幾何学,に区別を与えた.

アルゴリズム的な観点による遠アーベル幾何学とは,簡単に言ってしまえば,以下のような内容を
持つ遠アーベル幾何学の研究のことである.
アルゴリズム的遠アーベル幾何学 与えられた代数多様体Xに対して,抽象的な位相群π1(X)を
‘入力データ'として, そして,代数多様体Xに付随する幾何学的対象(例えばXそれ自体)を‘出力データ'とする‘純位相群論的アルゴリズム'を確立せよ.

そして,単遠アーベル的輸送(mono-anabelian transport) (例えば[65]を参照)という枠組みで
のその純位相群論的復元アルゴリズムの研究が,単遠アーベル幾何学である.遠アーベル幾何学の大
きな応用である宇宙際タイヒミュラー理論{66]-[69]では, このアルゴリズム的遠アーベル幾何学や
単遠アーベル幾何学が中心的な役割を果たすのである.