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「ABC予想」が数学の学会誌に掲載されない理由
2020/3/18 ( 森永流)

解決への道筋を示す

 素数の積をめぐっては、こんなことが言えるかもしれない。つまり、自然数の定義だ。1に1を足していって作られたものだとする「ペアノの公理」がよく知られる。足し算による定義だ。一方、かけ算でも定義できる。自然数はすべて素数の積に分解できるので、それをすべて作って小さい順に並べる方法だ(ただし1は素数の0乗)。数をそんなふうに見ると、足し算とかけ算は独立していて分離できるかもしれないと思えてくる。

 加藤さんの説明を掻い摘んでIUT理論を紹介するとこうだ。

 ・異なる数学の舞台(IUT理論ではuniverses、加藤さんの比喩では、足し算、かけ算が切り離されてかけ算だけを伸び縮みさせた世界)を設定。現実世界に計算者がいて、そこにテレビがあって画面の中に同じ計算者がいる。ただし2つの計算者は同じだが掛けられる制約が異なっている――というふうに舞台は現実世界も含めて入れ子式になっている
 ・計算の群論的対称性(計算方法のレシピ)を、各計算者に計算の対象や計算方法を伝達
 ・受信した対称性を基に、それぞれの舞台で元の計算の対象や計算方法を復元。計算を実行する
 ・対称性の通信や復元で生じる不定性・ひずみ、つまり計算結果のサイズの違いを定量的に評価して不等式を導く

数学には曖昧さもある
 ではABC予想はどうか。予想の主張である「c ?d^(1+ε)」。これのIUT理論での「deg Θ≦deg q+c」への帰結を目指す。

 評者のような文系出身者に「deg 」は無縁だったが、次数(デグ)を表す記号だ。ここではdeg Θ(デグ・テータ)が現実舞台での計算結果、deg qはかけ算を伸縮させた舞台での計算結果となる。右辺に加えられているcは、ABC予想のcとは別物で、ひずみの定量的評価で求められた小さな値だ。IUT理論によるABC予想は、現実舞台での累乗数が、かけ算伸縮舞台での累乗数よりも小さいことに帰結させたい訳だ。

つづく