『シナモンアレルギー』

(第一章)
透明人間、そう呼ばれてた〜♪ら、もはやそれは透明人間ではない。
どこかのアイドルが歌っているが、最初から設定が破綻している。
存在を認めてもらえるだけで、ありがたいと思わなければならない。

スーパーマーケットの出口を前にして、由依はそう感じていた。
透明人間になってしまった原因はシナモンだ。
普段から食べないように気を付けていたのだが、シナモンは不意打ちでやってくる。
試食コーナーのお兄さんが少し格好良かったものだから、思わずシナモンロールを食べてしまったのだ。
あと十分もすれば、体が完全に透き通る。
それまでに全裸にならなければ、服やメガネだけが浮き立ってしまう。
そして、この透明人間副作用(由依が名付けた)があと5時間程続くことも、経験からよく分かっていた。
下手に動けば、心霊騒ぎとなり、物理学者か化学者が総動員され、
アイドル人生はおろか本当の人生まで終了してしまう。

こんな時に頼りになるのが鈴本だ。
神様の低俗なダジャレ心が、解決への近道だった。
シナ「モン」、スズ「モン」。由依はこのダジャレに呆れていた。
どうせなら、くまモンとかにして欲しかった。

「あ、もしもし鈴本、助けて」
「え、何?聞こえないよ」
「ちっ」
思ったよりもシナモンの回りが早いみたいだ。シナモンは声まで透明にしてしまう。
由依はスーパーのトイレに駆け込んで、メールを送り、服を脱ぎ、鈴本を待った。