欅坂不良学園小説

突然、志田の携帯電話が鳴った。
「なんだ?」
 はじめは怪訝そうな顔で電話を取った志田だったが、すぐにその顔が鋭くなった。
 佑唯は、なにやら空気が変わるのを感じた。
 そして志田は、深刻な面持ちで電話に耳を当てながら「わかった」と言うと、突然、佑唯のほうに目を向けた。
「全員ここに集めろ」
「えっ?」いきなりそう言われた佑唯が戸惑いの反応を見せると
「早く!」
と、志田は強い口調で言った。
 佑唯は訳がわからないまま、フロアにいた他のメンバーたちのところに走っていき、志田のところに集まるように声を掛けた。
 また、先程、莉菜とともにフロアから出ていった渡邉も、佑唯にはどこにいるか見当がつかなかったが、上階に上がってその名を大声で呼んでいたら、どこからともなく渡邉が出てきた。

「どうしたの?」
集まったメンバーたちを代表して渡邉が志田に訊ねた。
「東のアジトに守屋たちが現れた」
「えっ!?」
メンバーの間に驚きが広まる。
「そんな・・・・・・フウたちは!?」
渡邉が緊迫した表情で志田に訊ねる。
「大丈夫だ。まだ戦い自体は始まっていない。俺がまだ戦うなとフウに言っておいた。今、アジトに立て籠っている」

「東のアジトって・・・・・・」
 人だかりの端で、佑唯が、同じく外れたところに立っていた先刻の少女、莉菜に話しかけると、意外にも莉菜は丁寧に説明してくれた。
 莉菜の説明によると、志田たちはこの地域に三つのアジトを持っており、それらはそれぞれ、西、東、南と線で結ぶとV字になるように位置しているらしい。
 志田の話のなかに出た「フウ」という人物は、そのアジトを任されている少年のことで、齋藤という姓を持つのだが、同じ名字のメンバーが他にいるので、その愛称で呼ばれているという。
 そして、その少年が守る東のアジトが、守屋という者たち──この名前には聞き覚えがあった──に襲われているらしい。