エオン・エキス著/竹内健訳『強姦の形而上学』(現代思潮社):本書は匿名で書かれた1冊であるが、タイトルどおり「暴力」によって、女性を「支配」することの正当性を叙述した1冊である。
ただし、これを馬鹿正直に何かのマニュアル本のように考えられては困る。
もちろん本書は、ニーチェが『善悪の彼岸』のなかで「女性」を「真理」の比喩として思索を展開していることを受けてのものである。
したがって、この本は「対話」によって「真理」を「表象」させるというプラトン主義批判、もしくは「対話」を通じて「合意」を形成するというハーバーマス批判を遂行した書物といってよい。
さて、本書は「真理」は論証されることがない、ということを男性の権威の確立という観点から叙述している。「権威」とは潜在的な「真理」であり、「女性」がそれを享受することで「真理」は開示される。
つまり「対話」による性関係の合意とは、権威を論証もしくは「対話」によって証明し生産することであり、実証されるはずのない「真理」を論証しようとする、虚偽の手法である。
なぜならば、両者において何らかの「真理」≒「合意」が形成されるならば、その時点で「わたし」と「あなた」とは、同一の「表象」「代表」=‘representation’のもとに差異が抹消される。
簡単にいえば、彼らは「他者」であることを忘却して、あたかも「合一」したかのような錯視に陥っている。