古い本に時々あるドイツ文字と, それらに対応してい
るアルファベットの表があり, 他書を読むにも役に立
つ. 全体にわたる詳細な説明の他にも, 他の本に書かれ
ていないことは, いくつかある.

空集合は任意の集合の部分集合であることを, 論理学
の根幹にあるふたつの基礎と対偶の原理を認めるなら
「証明」可能であると明記している. そして納得のい
く証明がある. この部分は(1+1/3)ページ分で済ませら
れている. しかし抜けは無い.

「{}⊆A」は論理学の立場から観ると「自明」(理論上
明白)なのだが, 高校数学からの接続を図って書かれた
大学数学の本には, 杉浦「解析入門T」の付録に本書
より厳密かつ豊潤に書かれてあるくらいだろう.

(選択公理が必然的に必要で通読には必須ではないが)
有限生成な群の極大な部分群の存在証明と線型空間の
基底の存在証明をしている. これらを同じ本で知るこ
とができるのは珍しいだろう. 線型代数の本で基底の
存在証明には, (理論上)自明な選択公理が使われている
が, 本書では無限次元の場合まで含めているのだ.

無限次元の線型空間に基底が存在することを保証する
には, どうしても(自明でない)選択公理が必要になる.
選択公理を適用する具体例と有用性が, 両者により分
かると思う. 他書では, 位相空間論において, 空でない
位相空間の直積が空でないことなど, 位相空間の範囲
で例示されている場合が多い.

ただし, あくまで「存在定理」は構成に何も言えない.
任意有限個の線型結合ではなく任意有限個の線型結合
の極限(ノルム収束)の意味なら, 関数解析における(可
分な)ヒルベルト空間に, 基底は三角関数あるいは多項
式により構成されている. これは数理物理学からの要
請による. 広く知られていないけれど, 可分なバナッハ
空間にも(ノルム収束の)或る意味の基底は存在する. ノ
ルムとバナッハ空間については本書にも説明がある.