【小説】欅坂守屋「バトルロワイアル?」
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2018年2月22日
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今泉「友梨奈!起きてっ!友梨奈ぁ!!」
ただ事ではない声に少女たちは目を覚ます。
今泉は傍らに眠る平手の腕を揺する。
平手「……ん……」
平手は目を覚まし上体を起こす。
周りを見渡すと見慣れない教室にいた。
机やイスはないが何の変哲もない至って普通の教室だ。
逆に何もないことが異常さを引き立てている。
今しがた起きたばかりのメンバーたちも同じように周りを見ていた。
平手「ここどこ!?」
今泉「わかんない!」
首を横に振る今泉。みんな同じ状況のようだ。
一体何が起きているのか、起ころうとしているのか。 小林「こいつしかいない……!」
誰が殺されたかは判らないが、すでに少なくとも一人殺していると確信する。
今泉「ご、ごべん……!わ、わだじが、間違っでだ……っ!!」
鼻水を垂らし泣きながら自分の過ちを謝る。
己の判断によって唯一無二の相棒が命の危険にさらされている。
呼び掛けをしようと言った自分を呪い、後悔の念が次々と押し寄せる。
後悔の果てにたどり着くのが先か、殺されて後悔しようにもできなくなるのが先か。
小林「逃げて」
今泉「――ぅえ!?……ぁん?!」
その言葉は自分だけを逃がそうとしてくれていることを意味する。
今泉「ゆ、由依ちゃんはどうするの!?こ、コロされぢゃうよほ!!」
小林「こいつは私が足止めしとく。だから、先に逃げて」
今泉「い、いやらよ……!!あたしも……戦ゔ!!」
小林はうつむき、しばしの逡巡の後舌打ちをする。 小林「あああああああああ!!!!!!」
今泉「ひぇ!?」
苛立ちの咆哮を敵ではなく今泉にぶつける。
小林「お前ってやつは、"ここでも"わがままばっかだなあ!!!」
今泉「へっ……………? ゆい、ちゃん――?」
初めて年下の相棒から怒られ、呆気にとられる。
怒りの顔をつくり年上の相棒に続けて言い放つ。
小林「邪魔なんだよ!足手まといなんだよ!!鬱陶しいんだよ!!!」
今泉「はへ……!?」
人生で面と向かってこれほどまでに全否定されたことはない。 小林「それとも何?私を殺す気?」
今泉「い――いっしょに逃げよっ!!!」
小林「お前バカか!?グズでノロマで短足なんだからすぐに追いつかれるに決まってンだろ!!」
今泉「で、でも……!」
いつまでもグズる妹に、姉は本気の一言を放つ。
小林「――殺すぞ」
今泉「ッ!!!」
いつも笑って元気で隣で歌っていた相方がものすごい殺意を向けている。
平手はいつまでも姉妹のやりとりを黙って見ているわけではなく殺しに来る。
小林「さっさと失せろこのブス!!」
今泉「う、わぁああぁあああゎわわわあああぁあッ!!!!!」 汗と涙と鼻水だらけの今泉は怖気づいて立てない。
平手が走って距離をつめ、そのまま二人同時に斬りかかる。
小林「おらァ!!」
今泉「うえっ!?」
小林は今泉の肩を手加減なく蹴り飛ばし、小さな体は一瞬宙を舞う。
飛ばされた今泉は山の傾斜で数メートル転がりながら下山し、何回転目かでうまく立ち上がっていた。
今泉「いたたっ……、あっ!!!」
振り返ると小林と平手は刀を交わせていた。
その最中に一瞬だけ目が合う。
今泉「!!由依ちゃ――」
小林はすぐに戦いに戻り、平手とやり合う。
意を決し逃げるため前を向いたとき背中から聞こえる。
小林「またね」
その言葉を聞き、さらに顔をぐちゃぐちゃにして振り返らずに山を下りる。 小林「おい平手。お前、誰を殺った?莉菜か、尾関か。それとも……虹花か」
平手「……」
問いは確実に耳に届いているが、全く心には届いていなかった。
心ここにあらず、夢でも見ているような目だ。
小林「何と言えよ。反抗期か?クソガキ」
悪口に反応したのか返事代わりに刀を突いて来て、サーベルで受け流す。
小林(話し合いは無理か。はなっから期待はしてなかったけど)
背を見せれば斬られる。逃げることができない。
戦う以外の選択肢などない。殺し合いの負けは死を意味する。
常に何歩も先にいたセンター平手に勝つことができるのか。
小林「負けたくない……」
日常では諦めていた。絶対に敵わないと分かっていたから。
初めて平手に勝ちたいと願い、埼玉の血が燃える。 先手でヤンキー顔負けのメンチを切る。
加えて可愛さで破壊力のある顔面を攻撃力にする。
平手「!!」
あまりの迫力にほんのわずかに退く。
その隙を見逃さずサーベルで斬りかかる。
三連撃で剣を振りかざすが、刀で受けられるも初めて平手を押していた。
小林「うぉおおおッ!!!」
咆哮の一撃は大きく上から振り下ろす。
仕留めたと思った斬撃は紙一重でかわされた。
小林「何!?」
カウンターの逆手斬り返しに襲われる。
攻撃をかわされた瞬間反撃を察知していたが、回避しぎれず可愛い顔を斬られた。 小林「ぐっ……!!がぁ!!!」
斬られたのは頬で、頬骨にまで達する裂傷から血が溢れ激痛が襲う。
それでも退かずすぐにWカウンターの逆手斬撃を繰り出す。
平手「!?」
追撃しようとしていた平手は斬撃を防げず頬を斬られる。
傷は浅かったが数歩退かせる。
小林「ハァ、ハァ……!!」
裂傷からの大出血と激痛に死を意識し、鼓動とともに息が上がる。
それを悟られまいとヤンキー口調で言う。
小林「調子こいてんじゃねえぞ!!!」
勝負に出て、シュシュと剣を次々と突き始める。 小林「オラオラオラオラオラオラァ!!!!」
平手「!」
そのまま平手へ連続ラッシュを繰り出す。
平手は回避を試みるが、剣はあちこちの制服を破き皮膚を割く。
息つく暇なく第二弾の連続ラッシュに襲われる。
小林「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!!!!!!」
――これで決める、終わらせる。こいつに勝って佑唯ちゃんとまた……っ。
小林は異変に気付き始めた。
突然空を突いているかのように手応えがなくなったのだ。
平手は剣筋を完全に見極め始め、踊りながら順応していた。
小林(あ、当たらない!?――クソ!!)
不安をオラつきで誤魔化しラッシュを続ける。
突いている限り反撃は来ないと思い狂ったように突きまくる。 小林「オラオラオ――ぐリゅィ!?」
変な声が出るほどの激痛が走り腕を引っ込めると地面に剣が落ちた。
小林「?!……あぁん?」
それもそのはず前腕の腹を半分ほど斬られ、だらんと曲がってはいけない方向に垂れていた。
骨折どころか尺骨を断ち切られ、もう一本の橈骨で繋がっている状態だ。
血は重力に反して止めどなく噴き出る。
平手はとどめを刺しに首を斬りかかる。
小林「!!!オ――ラァ!!!」
平手「!」
小林は左の拳を平手の側頭部に叩き込む。
そのまま吹き飛んで、山を転がっていった。
小林「ハァ、ハァ、……フッ!」
飛んでいった平手と反対方向へ武器も拾わずに走り出す。
逃げずにはいられなかった。待ち受けているのは負けしかない。
斬られた腕を抑えながら駆け、山を下り森の中へ入る。 小林(ムリだ……!!勝てるわけがない!!)
やはりアイツは天才だ。
闘いながらどんどん強くなっていった。
勝とうと思ってた私がバカだった。
でも、足だけならアイツよりは速い。
50メートル程走ったところで追って来ていないか振り返る。
小林(!!!!――ヒ、平手ェ!!!?)
すぐ近くまで平手が迫って来ており、心臓が痛いほどに跳ねる。
ターミネーターのような規則正しい走り方で持っている日本刀が光る。
追いつかれたが最期、文字通り必死に逃げる。
小林はひしゃげている腕を振れない分、ベストな状態ではなくその差は徐々に詰められる。
そして、平手の振り下ろす刀が小林の背中を捉える。
小林「かっ……!」
背中を斬られ、勢いよく前方へ3メートル程滑り倒れる。
裂傷は深く、鼓動とともに鮮血が流れる。 澤部はメンバーを道具のようにしか見ていない心のない冷酷人間で、
平手に歯向かったやつは殺されていく、
なかなかリアルな欅の内情が反映されている秀作だな 平手はとどめを刺そうと歩み寄ろうとする。
平手「……」
倒れている瀕死の小林から獣のような殺意を感じ、それ以上近づけなかった。
すぐに死ぬと分かったのでとどめは刺さず刀を鞘に納める。
小林を無表情のままじっと見つめて何を思うのか。
すぐに今泉の消えた方角へ立ち去った。
小林「う……ん!」
死の痛みに襲われながら、まな板で開腹された魚のようにまだ生きていた。
凡人である小林は天才平手に敵わなかった。
小林(死ぬ……。やっぱ……平手には、勝てなかった――)
もう長くないと悟り、歩んできた短い人生を振り返る。
埼玉で生まれ育ち、何不自由なく平凡に過ごしてきた。
高校に入ったら何かが変わるんじゃないかと期待していた。
勉強も部活も友だち人間関係もそつなくこなした。
でも思い描いたドラマやアニメのようなものはなかった。
何もないまま一学期が終わろうとしていた時に新しいアイドルグループのオーディションがあると聞いた。
アイドルに偏見を持っていた。自分がカワイイと思ってる子がぶりっ子してヲタクに媚びを売る仕事だと思っていた。
でも乃木坂46を見ている内にそんな偏見はなくなり、退屈を紛らわせてくれるんじゃないかと確信していた。
待っているだけじゃダメなんだ、自分から動かなければ。
風に吹かれても何も始まらない。 不思議なことに合格でき、普通の女子高生とはかけ離れた高校生活になった。
普通のアイドルとは違うグループになってしまったけど、とにかく楽しかった。
そこらの学生より忙しくて楽しくてかけがえのない時間を過ごした。
最期はグループで大人たちの盤上の駒として殺し合わされたわけだけど、愛する相棒と仲間へ呼び掛けたことも平手と戦ったことも私の人生に悔いはない。
激しい痛みと大出血で意識が遠のく中、頭に響く声量で呼ばれる。
??「由依!!!!」
落ちる寸前に意識が覚醒し目を開ける。
小林「あ……、茜…………!」
汗をかき涙をポロポロ流した守屋がいた。
深手を見るや、何をすればよいか分からずに慌てふためく。
守屋「ああッ!?」
傷口に手を抑えるも、血は止まらない。
病院もない。知識もない。手の施しようがない。
もう片方の手で小林の手を握りしめる。 守屋「あああ!!! どうじよう!!!どうすればぁあぁあぁ――」
小林は守屋の口元に人差し指を当てる。
守屋「!!」
小林(大声はダメ。あいつに見つかる)
去ったばかりの平手に聞かれでもしたら、守屋の命も危うい。
今度は通らない声量で、小林に訴えかける。
守屋「お願いだから死なないでッ!」
小林(それは、ムリ――)
必死な守屋の顔を見て、優しく微笑んで応える。
守屋「!!だ、誰がこんな酷いことを……?」
小林「ひ、平手……だよ……。あいつに――」
守屋「なっ!!? ゆ、友梨奈ぁ!??」
小林「気を付けて……。やつはすでに他にも――ガッハ!!」
守屋「由依ィ!!!」 小林「ゆ……佑唯を助けてあげて……。あの子、きっと、一人きりで、震えてるから――ッ!!」
守屋「もう喋らないで!! ずみ子は必ず助けるからあ!!!」
小林(負けず嫌いで正義感が溢れていて、私たちの呼び掛けにたった一人応えてくれた。来てくれて嬉しかったよ……。今まで優しくしてくれてほんとうに――)
最後となる一言は口に出して一文字ずつ言う。
小林「あ、り、が………と…………」
守屋「!!!ああっ!!!」
小林由依は感謝を言い遺し、ゆっくりと目を閉じ息を引き取る。
守屋「〜〜〜〜〜〜!!!」
悲しみがこみ上げ、声を上げずに遺体にすがりつきながら号泣する。
もっと早く来ていれば助けられたかもしれなかったと後悔する。
失った命は元には戻らないが、想いを引き継ぐことはできる。
守屋「帰らないと……。ふーちゃんとねるが待ってる!!」
綺麗な死に顔へ一言かける。
守屋「大好きだよ、由依。オヤスミ――」
来た道を引き返し、二人の待つ場所を目指す。 ・・・・・・
齋藤と長濱は下山し、西の森まで移動して来ていた。
長濱「ここまで来れば、大丈夫かな」
齋藤「ふう……」
禁止エリアを迂回し、山の中をずいぶん歩いたため小休止する。
隠密に移動していたため、ずっと聞けなかったことを尋ねる。
齋藤「それで、脱出方法なんだけど……」
長濱「あー、そうだったね」
思い出したかのように長濱は齋藤に向き合う。
齋藤「条件が2つあって、一つは最後までうちらが生き残ること。で、もう一つは?」
長濱「2こ目の条件は、その最後が来るまでねるはその方法を教えない」
齋藤「はぁ!?えっ……、なんで!?」
長濱「…………」 長濱は黙り、真剣なまなざしで齋藤を見つめる。
それ以上は言え内容で解らないながらも察する。
齋藤「……なるほど、それが条件なんだな」
長濱は固く頷いて応える。
齋藤「それは、茜がいた方が脱出できる確率が高まるのか?」
長濱「それはもちろん。1こ目の条件はこのチームが最後まで生き残ることやけん、茜ちゃんがおった方がずっといい」
齋藤「…………」
ねるは頭が良い。本当に脱出の方法を思いついているのかもしれない。
でも「最後まで生き残る」にはゲームに参加している仲間を殺さなければならない。
そうじゃなくて、今すぐにでも脱出したい。
それができない、言えもしない何かがある。
もし脱出方法などなく、全てが嘘だとしたら?
脱出を餌に仲間を集めて、最後の最後で裏切られたら終わりだ。
ねるがそんなこと――。 長濱に対して初めて疑いを抱くも、考えても仕方ないことなのでド直球で訊ねる。
齋藤「ねる。信じて……いいんだよな?」
長濱「当たり前だよ!」
齋藤「そっか……」
長濱「仮にねるのことが信じられなかったら撃ってくれても構わない」
齋藤「そ、そんなこと……できるわけないだろ!」
長濱「それにねるがこのゲームに乗っとったらあの時に撃ってるよ」
齋藤(そうだよ!あの瞬間に蜂の巣にされていた)
数時間前で南端で再会した時のことを思い出す。
齋藤「ゴメン!正直疑ってたけど、私はねるを信じる!」
長濱「ふーちゃん!ねるも信じとるよ。最後までずっと一緒だからね」 船の中で、少女たちを映像で見ている男たちがいた。
澤部「脱出なんかできるわけないだろー!なあ?」
黒服1「はい」
澤部「具体的な脱出方法は、この船を奪われることか。そのためにはチョーカーにあるGPSをどうにかしなくちゃならないし、何といっても"コンタクト"があるからな」
プレイヤーの右眼球に"コンタクト"が装着されており、自分で気づくことはできない。
他の人からも間近で覗き込まない限り発見は難しい。
澤部「あいつらの位置も、映像・音声が全部こっちに筒抜けなんだ。仮に脱出しようとした瞬間にバーン!すればいいだけだからな」
黒服1「原田葵は米谷奈々未、長濱ねると一緒なら脱出の算段がついていたそうですが」
澤部「ああ〜〜!確かに、あの三人が集まったらもしかしたらってこともあったかもな〜」
澤部「原田は小学生ならではの子どもの発想で何か思いついたんだろう。まあでももう序盤でもう死んでるし、米さんは中盤で、ねるは終盤で死ぬからな」
黒服2「そんな予想してるんですか?」
澤部「いや〜お偉いさん方に聞かれるわけよ。あいつらの番組MCなんかやってっからさ、誰に賭けたら儲かるかって」
黒服2「はあ」 澤部「今回の"バトルロワアル"は誰が優勝すると思う?」
黒服1「やはり自分は平手友梨奈かと」
澤部「平手はな!大本命だろーが!この状況になれば誰もがああなることを予想して……いや、期待してたんだからなあ!」
黒服1「彼女は天才です。完全に殺戮マシンとして勝つために戦っています」
澤部「対抗馬は誰がいる?」
黒服2「長濱ねるではないでしょうか」
澤部「おっ、ねるねるねーるねぇ!強い武器を持ってるし、できもしない脱出を餌に仲間を増やして有利にゲームを進めてるしな」
黒服2「マシンガンは最強の武器ですから、平手との対戦カードが今大会一番の見どころかと」
澤部「ほうほう。他には?」 黒服3「22番の転校生はどうでしょう?」
澤部「う〜ん謎の転校生かー。すでに一人殺ってっけど、正体バレてたもんな〜」
黒服3「今夜は満月ですし、彼女の独壇場になりますよ」
澤部「そういえばそうか!」
月の存在を思い出し、転校生にもワンチャンあると考え直す。
澤部「じゃあ大穴は誰かいるか〜?」
黒服4「自分は守屋茜を推します」
予想外の名前が飛び出し、澤部は驚きと喜びの顔をする。
澤部「んんん守屋ぁ!!平手のことも知ってるし、銃を持ってるからな。軍曹の名前は伊達かどうか」
大人たちは掌の上で踊り続ける少女たちを見て愉しんでいた。 ・・・・・・
守屋は最初に長濱と齋藤に会った場所の近くまで戻って来ていた。
守屋(もしかしたらまだ待っててくれてるかもしれない……)
北の山で落ち合う約束はしていたが、行き違いにならないために元居た拠点に寄ることにした。
少しの期待を寄せて先程までいた場所に帰って来た。
守屋「!!」
そこには立っている人の姿が見えた。
守屋(よかった!また会えた――)
長い銃を持っていることから齋藤の名を呼ぶ。
守屋「ふーちゃん!!」
??「!!!」
その人物に声が届くと、瞬時に振り返り顔を見えた。 守屋「あっ!理佐ぁ!!」
齋藤ではなかったが渡邉に近寄ろうとした瞬間、銃声が耳を劈く。
守屋「――?」
渡邉がスナイパーライフルを向け、そこから硝煙が上がっている。
何が起こったのか解らなかった。
――理佐が、銃を、撃った……、誰に?――私に!
撃たれたことを認めると遅れて痛みに襲われ、顔を苦渋に歪める。
守屋「アツ!?」
弾丸は制服の上から二の腕を抉り、深い裂傷をつくって流血する。
右手に握っていた銃を地面に落とす。
守屋「なっ、何でなのぉ理佐ァ!?私は殺し合いなんてしないのに……!!」
涙ながらに訴えるも、渡邉には響かない。 渡邉「フッ……」
守屋「んなにがおかしいのお!!?」
渡邉「何でも何もないよ。たった一人になるまで帰れないんだから殺るしかないでしょ」
守屋「ッ!!」
クールにそう答える渡邉の余裕ぶりから、すでに誰かを手にかけていることを確信した。
落ちている銃を拾おうとすれば、確実に撃たれる。
渡邉「逝ってらっしゃい」
守屋「うわ――!!!」
殺されると察し後手、ブレザーの右の懐に忍ばせていたモノを取り出す。
渡邉「!!」
守屋「あああッ!!」
渡邉は飛び退き、弾丸は地面に当たる。
その隙に、地面に落としたもう一丁の銃を拾い上げる。 さらにもう一発弾丸を放つと、渡邉は木に隠れる。
顔を出した瞬間に撃たれることを恐れ、木を背にして守屋の気配を探る。
渡邉「…………?!」
撃って来ず、気配が遠ざかっていくのを感じ木から姿を現す。
全速力で逃げる守屋の背中を狙い、スナイパーライフルを撃つ。
守屋「ばはっ……!!」
弾は肩にかかる髪を吹き飛ばした。
それでも足を止めずに駆け抜ける。
狙撃は木々に阻まれ、標的を見失った。
渡邉「チッ」
仕留め損ねたことに舌打ちをする。 ・・・・・・
11:00
長濱と齋藤は小休止していた西の森から北の山へ移動しようとしていた。
その前に長濱は用事のため齋藤から少し離れる。
齋藤(さっき銃声がしてたけど、茜は大丈夫だろうか。無事にまた会えるかな……)
メンバー想いはチーム1を誇る彼女は心を痛めていた。
ゆいちゃんずの決死の呼びかけに応えず逃げてしまったことに。
長濱の引き留めに折れてしまったのだ。
しかし自分を想って引き留めてくれた。
生きることを最優先にした結果で感謝すべきだろう。
齋藤「!」
用事で消えた長濱と反対方向から人が来る気配がする。
齋藤(茜か!?よかった。ちゃんと来れたんだ……!) その人物を見て、歓喜の声を上げる。
齋藤「あっ、平手ぇ!!」
平手「……」
平手は俯きながら齋藤に近づく。
齋藤「おい血がついてんじゃん!怪我してんか?」
制服についた血と顔の傷を見て、心配して駆け寄る。
離れた場所で、長濱はかすかに声が聞こえた気がした。
長濱(今、ふーちゃんの声が聞こえたような……。なんか嫌な予感がする……)
胸騒ぎを覚え、世界で一番愛する人の元へ急ぐ。
10メートルを秒で戻った。 戻った長濱が目にしたのは一番恐れていたものだった。
長濱「ふーちゃんッ!!!」
齋藤は腹部を刺され、患部と口元から血を流している。
??「!」
敵はマシンガンを長濱の持つ見て、齋藤を楯にするため首に腕を回して刀を突きつけた。
長濱は敵の顔を見て激昂する。
長濱「ひっ、平手ェエエエエエエ工工工工工工工工!!!!!」
かつてないほど怒り狂い機関銃を平手へ向ける。
長濱(コロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!!!コイツはココでコロす!!!!!!)
最愛の人を傷つけられて、興奮が限界を超える。 長濱「フ――!!フ――!!!」
齋藤「ね……る……」
荒い息遣いで興奮をわずかに抑え、ギリギリのところで理性を保つ。
すぐにでも平手を全身蜂の巣にしたくてしょうがないのに、引き金を引くことはできない。
長濱(今撃ったらふーちゃんに当たる……!!何とか助けないと――!!!!)
齋藤「ごぽ……」
人質にされている齋藤は口から血を吐き出す。
長濱「ああッ!!ふーちゃん!!」
齋藤は激痛と出血で朦朧とする意識の中、声を絞り出す。
齋藤「に、げ、ろ……!ねる……ッ」
長濱「えっ……!?」 平手は傍らに二人分の荷物が転がっていることに気が付く。
齋藤を楯にしたまま荷物の方へにじり寄る。
長濱(マズイ……!あのバッグの中には、もういっこのマシンガンが入って――)
齋藤「おね、がい……!いきて、くれ………っ」
長濱「!!!冬優花ぁ……っ!」
長濱の頭には三つの選択肢があった。
一つ、重傷の齋藤もろとも平手を蜂の巣にする。
しかし、齋藤を殺すことなどできるはずがない。
どの道平手に殺されるならいっそ自分の手で――。
二つ、ここで齋藤と一緒に平手に殺される。
心中するのであれば平手も道ずれにすればいい。
齋藤を殺して、自分も死ぬか。
三つ、齋藤の願いを聞きしっぽ巻いて逃げる。
最愛の人を置いてこの場から逃げ出すことが許されるのだろうか。 いずれにしても齋藤が助かる道は思いつかなかった。
平手「……」
平手は一つの鞄を見終わり、マシンガンの入ってるもう一つの鞄に手をつける。
時間は有限で永遠に考えてはいられず、苦渋の決断を下す。
長濱(仇は絶対討つ…………。だから!!!)
長濱は背を見せて走り出す。
齋藤「ふっ――」
齋藤はわずかに安堵の顔を見せ、自分のせいで仲間が死ななくてよかったと思った。
平手は二つ目に開けた鞄からサブマシンガンを取り出し、すぐに引き金を絞る。
だららら、と短く連射された弾丸は長濱ではなく木々に吸い込まれる。
平手「!」
定まっていた照準を、人質の齋藤が銃身ずらしていた。
長濱の姿を見失い追うことを諦める。 人質の役割がなくなった齋藤をゴミみたいに捨てる。
齋藤「ぐはっ……。ひら、手〜〜!!」
平手「……」
無表情のまま齋藤を見下し、サヴマシンガンを構える。
齋藤は銃口を覗かされ、自らの死を悟る。
齋藤「地獄へ……、落ぢろ゙……ッ!!」
それが引き金となり、サヴマシンガンは火を噴く。
齋藤冬優花の顔を半壊させ、血の花を咲かせた。
平手「だららららら」
最強の人物が最強の武器を間近で見つめ、子どものように銃声を口にした。
残り16人 第四話
12:00
澤部『えーそれでは正午の放送をしますーす!』
時刻は正午になり、運営側から二回目の放送が入る。
澤部『死亡したメンバーを発表します。七番小林由依と八番齋藤冬優花!!禁止エリアの発表をするぞー』
三つの禁止エリアを読み上げると、早々と放送は終了した。
放送を聞いた長濱は悔しくて悲しくて苦しくて胸が引き裂かれた。
長濱「あっははぁあああん……!!!!」
量の涙を流しそれが銀河となる。
長濱(脱出方法なんて……ない……。嘘っぱちだ……)
絶対に外れないチョーカーがある限り脱出は不可能だ。
素人の小娘にどうやって複雑な機械を外すことができようか。
最期まで生き残り、二人きりで明日の24時まで愛を深め合った後自殺するつもりだった。
齋藤を優勝者にさせて、正攻法で島から脱出させる計画だったのだ。
長濱「×××……」
長濱ねるの脱出方法は破綻し、齋藤を亡くした悲しみで溺れ続ける。 ・・・・・・
十五番土生瑞穂は放送を聞き終え一人安堵していた。
土生(よかった……。あの子はまだ死んでない……)
我に返り安堵していた自分を叱咤する。
土生(いやいや、何を安心しているんだ!メンバーが何人も死んでるんだぞ!!)
ゲーム開始から自分より先に出たメンバーを求め、島を奔走していた。
支給された武器は2メートルはある棒と先に取り付けることができる槍の刃だった。
刃は取り付けずしまったままで、ただの棒っきれとして持ち歩いている。
土生(早く見つけないと……とりかえしのつかないことになる――)
森を進んでいくと先に倒れている人の足が見えた。 土生(だ、誰か倒れてる!?いや、まさか――!!)
探し人ではありませんようにと願い、確かめるべく足早に近寄る。
土生「あ……っ、葵ちゃん…………」
そこには頭部を撃たれ原田が死んでいた。
人の死体を初めて見てそれが二年半共にしたメンバーであり力が抜けていく。
現実のものとは思えず、どうしようもない不安感が募る。
土生(ダメだ……やっぱり、意味が分からない……っ。でも、ここでへこたれてるわけにはいかない!)
棒を杖に立ち上がり、現場検証を始める。
傍らに自分が持っているのと同じ棒っきれが落ちている。
周囲を見ると、近くに空薬莢が落ちていた。
犯人はこの弾の銃を持っている。
空薬莢をポケットにしまい、現場検証を終える。 最後に原田との思い出を振り返る。
土生「…………」
お仕事とお勉強を両立しててほんとに偉いよ。
大きいことにコンプレックスを抱いていたから、ちっちゃくて可愛い葵ちゃんに密かに憧れてたんだよ。
同じ東京出身だったけど年も離れてるしあまり関わらなかったけど二人のユニットがあったね。
"ゴボウちゃんず"、一瞬だけだったけどすごく嬉しかった。
ぷくっと頬っぺを膨らませてる葵ちゃんがいつも可愛かった。
土生「ナム」
遺体の前で手を合わせ、探し人を求めて走り出す。 土生が杉村ポジションかぁ。
となると琴弾はどっちだろう? オリジナルのバトルロワイヤル知らないから土生ちゃんが妙に賢くて違和感w ・・・・・・
17:00
ゲームは進行しないまま、陽が地平線にたいぶ近づいて空が茜色に染まりつつある。
守屋は西の森で膝を抱えて震えていた。
昼の放送で齋藤が殺されたことを知り、小林が平手に殺されたのを目の当たりにした。
自分も渡邉に殺されかけたことで完全に怖じ気づいていた。
守屋(う、動いたら……死ぬ……。殺される……!!ここでじっとしてれば大丈夫……?)
薄暗い森の中に潜んで入れば見つかることはない。禁止エリアにならない限り。
かれこれ六時間以上も何もせず、ただ生きていた。
孤独と絶望が増長し闇に押し潰されそうになり、発狂したくなるのを必死に抑え込んでいる。
こんな時こそ人肌が猛烈に恋しくなる。
守屋(ひ、一人はダメだ……!誰かに会いたい!!今、本当に信頼できるのは――)
現在、生き残ってるメンバーを思い浮かべる。 長濱は齋藤が殺され、今はどうなってるか分からない。
織田も小林を殺されて正常でいられるだろうか。
理佐がああなってる以上志田もやる気になってそう。
渡辺は普段はあんな感じだけど、実は裏の顔があってゲームに参加してたらどうしよう。
長沢は狂気に駆られてイカているかもしれない。
土生はデカくて怖い。
小池は関西人でキレてたらヤバい。
上村は平手のマネをしてゲームに乗っているかもしれない。
普段信じているメンバーのことを、この状況が疑心暗鬼にさせる。
そんな中、たった一人だけ心から信用できる人物がいた。
守屋「友香ぁ……!」 キャプテンの菅井は、どんな時もチームとメンバー一人ひとりのことを考えてくれている。
優しくて柔らかい菅井に限っては殺し合うことは世界が滅びてもあり得ない。
守屋(友香に会いたい!!友香なら絶対に信用できる!)
平手、理佐、転校生だけではなく菅井以外のメンバーには銃を向けることを心に決める。
久しぶりに立ち上がり、軽く屈伸と準備体操をする。
守屋(友香なら多分誰かといるはず!となるとどこかの建物にいる?)
ウォッチの地図アプリを見て、直感で最東端にある灯台にいる気がし目指すことにする。
自分を無理やり鼓舞し、気合を入れて第一歩進もうとした時だった。
守屋(よっしゃ行くぞぉ!……ッ!!??)
移動しようとした時、人影を見つける。
その人物はまだこちらに気が付いていない。
守屋(ゆ……ゆ、友梨奈……!!!!) 最も会いたくない人物に遭遇し、息と体が硬直する。
平手は10メートル先を守屋から見て横切っている。
守屋(どうしよう!!?見つかったら殺される!!!)
早くも移動しようなんてしたことを後悔していた。
隠れてやり過ごすか。このままだとこちらに気付かれるかもしれない。
守屋「…………」
小林の死の間際を思い出し、自然と銃を前に向けていた。
平手「!!!」
銃を向けられ殺気を感じ取った平手は振り返る。
守屋が銃を向けていることを認識すると目の前の木に飛び込む。
引き金を絞り、弾丸は先ほどまで平手がいた地面に当たる。
守屋(ここで友梨奈を倒せば他のみんなを守れる!!それに、由依の仇だ!!!) 守屋「うっ…………うおおぉおおあああああああ!!!覚悟しろよォ友梨奈ァああッ!!!」
二発目の怒りの射撃は平手の隠れている樹に命中する。
守屋「みんなの事は私が守るッ!!!」
三発目も木に命中する。
弾が止むと平手は隠れる木々を素早く移動し、徐々に迫って来る。
守屋(な、何……!?速すぎて――!!)
四発目、五発目を素早く移動する平手に向けて撃つも命中しない。
平手「4、5………6」
標準が定まらないまま六発目も空を撃ち、弾切れになる。
平手は六発撃ったことを数えており、木から飛び出て一気に突っ込んで行る。
守屋「!!」 練習通りに素早く空弾倉を落としスカートから予備マガジンを取り出し装填した。
平手に3メートルまで接近され、銃口を向けると停止した。
平手はじっと銃を睨み付け、真剣を前に構えている。
守屋「友梨奈ァ……何か言い残すことはある?」
平手「……」
声は届いているのに会話ができない。無口キャラを演じているのか。
殺人鬼は語らない理想像を描きそれに完全に成りきっている。
そんな事情など知らず、物言わぬ最年少に結論を出す。
守屋「…………、そう。じゃあ、死んで!」
ドンと放たれた弾丸はひらりとかわされ同時に間合いを詰められる。
守屋(よ、よけられたあ!!?もう一発――!!)
あまりにも至近距離に迫られ、発砲と同時に目をつぶる。
再び人差し指を絞るより先に、一閃の斬撃が守屋を襲う。 守屋「っ!!!……ッ?」
確かに引き金を引いたつもりだったが銃声は響かず、代わりにボトッと地面に何かが落ちる。
音からにして重量のあるものだと感じ、そっと目を開けて見る。
守屋(て……手ェッ!??だ、誰の……!!?う、私の――!!!!!!??????)
地面には銃を握っている人間の右手が落ちていた。
切り口から血が飛び出て骨を断たれた激痛に天津飯のように仰け反り、偶然とどめの斬撃をかわせていた。
守屋「ぎゃぁああああっはああああああ゙あ゙ッ!!!!!!!!」
後方に倒れ、山の斜面になっておりそのまま下まで転げ落ちる。
後を追うように平手は滑りながら坂を下る。
全身打ち付けながら平面のところで止まり、よろよろと立ち上がる。
守屋「ッ〜〜!!!!!!!」
滑って迫り来る平手を見て、懐からもう一丁の銃を取り出して向ける。 守屋「ユ、リ、ナアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!」
平手「!」
平手は坂の途中で止まり、下の守屋を見降ろす形で対峙する。
守屋は負傷した右腕を心臓より高い位置に上げ脇を締める。
激痛どころの騒ぎではなく目をちかちかさせながら質問をぶつける。
守屋「何でこんなごどお゙お゙お゙!!!!何で由依を殺じだのおぉおおおお!!!?」
平手「?」
首を傾げ、頭にはてなを浮かべている。
守屋(――こいつッ!!?完全になりきってるっ!!!)
平手にとってサイレントマジョリティーにしても殺し合いにしても同じこと。
自分が演じなければならない役を完全に理解し、それを完璧以上に成り切ることができる。
故に彼女が天才と呼ばれているのだ。 守屋「〜〜〜〜〜!!!!!」
話をしても無駄だと判り背を見せて逃げる。
それを追いかける平手。
手負いでも漢字欅で一番足の速い守屋から徐々に離されてれていく。
平手「…………」
逃げ切られると判断すると腰のマシンガンを取り出し、追いかけながら火を噴かせる。
守屋「ぅぴょんっ!?」
ダララララララララと十発撃たれたが、木々が障害物となり当たらなかった。
ここに来て軍曹の悪運の強さを発揮する。
守屋(足でなら友梨奈には負けない!!!!絶対二逃ゲ切レル――)
再びマシンガンを守屋に狙いを定め引き金に指を掛ける。
数撃ち続けられ内二発が木々をすり抜けて右腕を貫通と左肩を掠めた。 守屋「あ………………」
死んだと思い景色がゆっくり流れだす。
実際に足が止まり体が傾き視界が斜めになる。
守屋「ぐっ――ふッ!!」
ここで足を止めたら本当に最期、何もかも終わりだ。
気合で踏ん張って持ち直し、再び足を回す。
守屋「うわぁあぁあああぁあああぁあああ……!!!」
叫びながら逃げる守屋を地獄の果てまで追う平手。
しばらくすると森が開け、断崖から海が一望できるところに出た。
守屋(なっ!!?森がっ!??)
ここには一切の遮蔽物はなく、マシンガンは守屋を一直線上に捉える。 平手は標準が定まり指を絞ろうとした瞬間、視界に白いモノが飛び込んでくる。
それはマシンガンに覆いかぶさるように直撃し、手から弾き落とした。
平手(メガ、ホン――?)
地面に落ちた黒いマシンガンと白いメガホンを見た。
飛んで来た方角へ振り向きざまに刀を振る。
平手「!」
ガギンとちょうど二本の刃による攻撃を日本刀で受け止めた。
刃と刀がぶつかり合い、微量の火花が散る
襲撃者は両手にクナイを持ち力いっぱい押す。
今泉「久しぶりだなァ、平手ッ!!!」
平手「今、泉……」
小林は命を賭けて自分を逃がし、平手と戦ってくれた。
きっと平手に殺されなくても、転校生に殺されるのがオチだ。 今泉(私だけが生き残っちゃいけないんだ……。だったら私も命の限り抗って、闘ってから――死ぬ!!!)
死を覚悟した今泉の力は強く、平手に押し勝ち退かせる。
振り返らずに走っていた守屋は何が起こったか分からずにまだ走り続け平手から逃げ切る。
今泉(茜ちゃん、よかった……。私でも人を助けることができた――)
守屋の逃げた方を見て姿が見えなくなり仇に向き合う。
今泉「平手〜〜!!お前は、私が殺すッ!!」
分校でたまたま一番近くに眠っていた平手を起こした。
思えば平手に触れて、話しかけたのはずいぶん久しぶりだった。
こんな状況なのにこうして一騎打ちで戦えることが少しだけ嬉しく思う。
たった一人きりの親友にして相方を殺された怒りで全存在をかけて闘う。 平手「……」
平手は顔色一つ変えず、今泉を迎える。
日本刀を構える平手は自然と達人の構えになっていた。
剣道を習ったことも刀を持ったこともないが最も適した構えが達人のそれだった。
またはドラマで見たことがありマネをして演じているだけの可能性もある。
今泉はクナイを順手から逆手に持ち替え、胸の前で手を交差させ重心を低くする。
しばらく見つめ合い、平手から一瞬で間合いを詰めて仕掛ける。
今泉(速い――!!)
一閃の突きを右手のクナイで受け流し、左手のクナイを顔めがけて振り回す。
仰け反ってかわされ、刀を振り下ろして来た。
両手のクナイを交差させて受け止めたが、ガラ空きの胴へ前蹴りをもらう。
今泉「うッ――」
数メートル吹っ飛ばされる。
人生で初めて腹を蹴られ、鳩尾に入り未知の腹痛に襲われる。
弱っている状態で刀を突いて来た。
今泉「!!」 身を転がしてかわし、刀は地面に刺さる。
泥だらけになりながら、身体を起こし膝立ちになる。
今泉(こ、殺しに来た……!負けてられるか――)
天才今泉は目を覚まし、平手のマネをする。
今度は今泉から仕掛ける。
今泉「フッ――」
今泉の右クナイを振り下ろすと、刀を横にして受け止められる。
ガラ空きになった腹へ左クナイを突く。
平手(……!!)
今泉の二弾攻撃は横にはかわせず、下にもしゃがめない。
平手が出した答えは上であり、飛び跳ねて空に逃れる。
宙にいる平手へクナイを一つ投げ飛ばす。
一太刀で弾き飛され、大振りが降って来る。
バックステップでかわし、そのまま弾かれたクナイを拾う。
平手は着地と同時に恐るべき脚力により一っ飛びで間合いを詰め切め、そのまま刀を突き出す。 今泉「なっ!?」
背後に毒々しい髑髏が浮かんだ気がした。
後退し続ければ死ぬ予感がした。
今泉(かわし、切れない!!!!死――――)
死を覚悟した瞬間、迫り来る日本刀がスローモーションになる。
後退中に右横へ急転換する。
今泉「ずあッ……!!」
今泉は胸を斬られ、転がりながら距離を置く。
今泉「ハァ!ハァ!!ハァ!!!」
豊満な胸で防がれ、致命傷に至らなかった。
まな板であったなら、即死していただろう。
それでも乳房を斬られた痛みは大きく、苦渋に顔を歪める。
胸に手を当て、深呼吸をする。 今泉(いっっっったあ〜〜〜〜!!心臓が激しく動いてるのが判る……。私はまだ生きてる!!)
長期決戦になれば不利になることを知り、一気に勝負に出る。
今泉は走り出しアニメのように距離を保ちつつ敵の周りを回る。
平手「……?」
平手にはこれが何の意味があるのか解らなかった。
今泉はある地点で急転換し、平手へ突っ込みクナイによる連続ラッシュを繰り出す。
今泉「はあああぁああああああああああ!!!!!」
朝小林から受けたサーベルラッシュは片手のみだった。
夕今泉からのクナイラッシュは両手である。
今泉「あらららああああああああああああああああああああ!!!!!」
キンキンキンと刃と刀がぶつかり合う音が響く。
次第に加速していき、小林仕上げのボロボロの制服をより破壊していき小さい切り傷も与えた。 平手も負けじと刀で対応し続けているが、小回りの効くクナイに対して圧倒的に不利だった。
平手「っ」
一旦距離を置くために、後方へ飛び退く。
足元を見て、あることに気付く。
平手「!?」
平手は断崖絶壁に立たされていた。
眼下は高さ15メートル以上はあり海が広がっている。
珍しく焦りの表情を見せ、刀を持つ手に汗を握ってた。
今泉はただ連続ラッシュしていたわけではなく、崖の方へ少しずつ悟られないように追い詰めていたのだ。
今泉(嘘――、勝てる……!!あの平手に……、この私が――!!)
実力であと一歩で平手に勝てる直前まで来ていることが信じられない。 勢いで最後のとどめの算段を立てる。
また連続ラッシュをしても見切らて反撃される。
やつに同じ手は通じるわけがない。
だからまず、クナイを一つ飛ばす。
それを避けられまたは弾かれ、その隙にもう一つのクナイで突っ込む。
反撃されたとしても平手に致命傷を与え、そのまま崖下に突き落とす。
今泉(終わる…………)
決着が近いことを悟る。
夕日が三分の一沈み始めて、空が赤く染まる。
相打ち覚悟で、命の勇気を振り絞って実行する。
今泉「平手ェ―――――――――――――――ッ!!!」
叫びながら平手の顔めがけてクナイを投げつける。
同時にクナイのすぐ後ろをダッシュする。
今泉(さあ!避けるか、弾くか?)
その時、ドンと轟音が響き世界と体が停止する。
投げたクナイは平手の頬をかすり、彼方へ消える。 今泉「――な……に……?」
平手を見るとあるモノを持っており、そこから硝煙が上がっていた。
それは先刻守屋から腕とともに斬り落とした拳銃だった。
銃だと認識して、ようやく自分の身に起きたことを理解する。
今泉「ごぽっ」
右胸に穴が空き、血を吐いて前に倒れた。
今泉(ああ――。やっぱり…………)
最後の最後まで銃を使わなかったのは、数少ない弾丸を節約するためだったのか。
それとも真剣勝負に応じてくれたのか。
もしくは守屋から奪った銃の存在を忘れていたのか。それはないか。
いずれにしても真剣勝負では今泉が勝ったが、殺し合いという仕合においては敗れた。 今泉(平手……には、誰も……敵わ、な――い……)
センター平手友梨奈に一度も敵わないまま、今泉佑唯は生涯を終えた。
陽が地平線に沈み時刻が18時になると、ウォッチから三回目の放送が入る。
澤部『今日も一日お疲れさん!まずは死んだメンバーを発表するぞー』
澤部『二番今泉佑唯。以上!どうしたーペース落ちてきてるぞ〜もっと頑張れい!』
その後三か所の禁止エリアを発表し放送が終わる。
平手「……あと、14」
島にいる自分を除いた残りの人数を呟く。 ・・・・・・
守屋は右手を失い穴が空いた体で命辛々診療所の近くまで来ていた。
守屋「あっ、た…………っ」
建物が見えたところで、力尽き倒れる。
しばらくして、屋内から眼鏡をかけた人物が出て来る。
十手を持ち警戒しながら歩き、満身創痍な守屋を見つける。
??「早く手当てせんと……!!」
関西弁の少女は、守屋を担ぎ診療所の中へ運ぶ。
残り15人 センター平手友梨奈に一度も敵わないまま、今泉佑唯は生涯を終えた。
この一文が、話のストーリー的にも、今の欅にもバッチリ当てはまり過ぎてて草 てっちゃん桐山?七原ポジで見たかったわー
みつこはりさかな? 上村、織田、小池、志田、菅井、鈴本、長沢、梨加が全然出てこないのが気になる あ、勝手によねさん脳内で死んだことにしてた
そうだね、十手眼鏡はよねさんだ 第五話(前半)
19:00
十九番米谷奈々未はあるメンバーを探し、診療所から分校の近くにまで来ていた。
米谷(確か、この近くやったな……)
記憶する場所に大分近づいた時、かけている眼鏡型探知機に自分以外の反応が増えた。
米谷「!」
体が硬直し、そのまましばらく足を止める。
レンズに写る赤い点が動かないことを確認する。
米谷(……間違いない。この先に、虹花がおる――)
反応のする方へ、ゆっくり歩を進める。
森を抜け道に出ると、道端にチームメイトの死体が転がっていた。 米谷(虹花……)
石森の死体を見るのは二度目になる。
一度目は分校から出てすぐに見つけ、恐怖のあまり逃げ出してしまった。
死体の前にしゃがみ、前にできなかったので手を合わせて追悼する。
米谷(一体誰に殺されたんや……。転校生か、あるいは――)
守屋を介抱している時、うわ言であるメンバーの名前を言っていた。
おそらく守屋はその人物に斬られ、撃たれたのだろう。
石森には刃物で刺された傷が見受けられる。
もしかすると守屋を襲ったのと同一人物かと憶測する。
米谷(今は考える時やない。すべきことをせんと)
守屋に輸血するために懐から注射針を取り出し先端のキャップを外す。
石森の腕の袖をめくりあげると、肘まで素肌が露わになった。
硬直している腕の血管へ針を刺すと、何も起こらなかった。 米谷「……え?」
数秒後に数滴の注射器に血が流れ込み始める。
米谷(お……遅すぎる!!死んでからかなり時間が経ってるからか!?)
森とは違い道の真ん中にいるだけでかなり命を危険に晒さしている。
ゲームで動くことは死ぬ確率が高くなるという当たり前なことを理解していた。
逆に動かず一か所に隠れていれば生存確率が高まる。
死にくなければ動かないなければいいだけの話だ。
それを回避するために運営側は禁止エリアを設け、プレイヤーを行動させリングを狭めている。
一刻も早くこの場を立ち去らなければならないのに、一向に血は溜まらない。
患者の出血量からして、2リットルは必要である。
右手は注射器を支え、左手は硬直した腕をもみほぐすも変わらなかった。
米谷(腕を切り落として血を採れば……。あるいは――)
すでに死んでいるとはいえ死者を痛めつけるのは許されない。
しかし死んでしまった人より、今まだ生きている人を救うべきだ。
米谷(やるしかない。守屋の――みんなのために……!) 傍らに落ちている斧を持ち上げる。
軽く素振りをして、切断しようとする箇所に刃を近づける。
米谷「虹花……、ほんまに……ごめん!!!」
巻き割の要領で、石森の身体へ斧を振り下ろす。
米谷「――ッ!」
一太刀では断ち切れず、斧を引き抜き再び振り下ろす。
それから数回に渡り骨と肉を斬り、息を切らす。
米谷「ハァ、ハァ、ハァ……!!」
死後12時間以上経過していても、動脈が集中している箇所なので勢いよく血が溢れる。
切り口へ血液パックを直に当て血液を溜める。
米谷(覚悟していたことや、こうなることは。虹花……。許して、くれんくてもうちはきっと地獄行きやろな。いや、もうここが生き地獄か)
やってはいけないことをやっているようで罪悪感に苛まれる。
生き残るためとはいえ、死体損壊罪を犯してしまった。
犯罪に巻き込まれている状況下での犯罪は問われるのだろうか。 米谷(ここが島で良かった。都会やったら埃や黴菌が入って使いもんにならんかったからな)
潔癖症の米谷が血液は汚れていないと太鼓判を押す。
守屋を救う血を溜めながら脱出方法を考えていた。
米谷「…………」
助けを呼ぶことは無理だ。
支給されたウォッチの電波は送受信全て船で管理されている。
インターネットも使えず、たとえスマホを持っていても電話も通じないだろう。
ハッキング技術があればチャンスがあったかもしれないがそんな芸当誰ができよう。
助けを待つのも期待できない。
2月なのにこの涼しさからして、おそらく小笠原諸島もしくは沖ノ鳥島より南に位置しているのか。
地図にも乗っていない島に偶然この二日間に通り過ぎる船があるだろうか。
絶対的にチョーカーを外さなければ脱出はできない。
これがある限り、大人たちの操り人形で居続けるしかない。
明日の24時に一人以上生き残っていた場合でもチョーカーさえ外れていれば生き残れる。
これさえクリアできればなんとかかなる。
あとは船を襲撃して、ゲームを止めさせる。
禁止エリアに入ると爆発させられることからGPSが内蔵されている。
外せば澤部達のいる船に気づかれずに近づくことができる。
武器はあるが最終的に銃撃戦を制さなければならず不確定要素が多く危険だ。 確実とは言えないが脱出方法を思いついていた。
石森のチョーカーを見て、簡単に触って確かめてみる。
米谷(カメラは……ないな。たぶんマイクは内蔵されとるやろうけど)
一つ手に入れば何時間かかってもいいから慎重に解体して中身を調べられる。
米谷(爆弾を回避して、取り外すことができれば――生き残れる!)
考えている内に、血液は1.5リットル近く溜まる。
重傷患者に安全とは言えない血を輸血するのは病気になりやすいと聞いたことがある。
今死んでしまうよりかは、例え後に病気になったとしても病院で直すほうがはるかに良いだろう。
米谷(よーし。あと少し――)
??「よねっ」
米谷「!!!!!」
突然声をかけられ、呼吸が止まり心臓が止まりかける。
振り返るとそこにはよく知る顔があった。 米谷「う……、上村……!」
三番上村莉菜が青ざめて震えている。
上村「な、何してるの……?」
米谷の後ろで誰かが血を流して死んでいる。
顔は米谷の背に隠れて見せなかった。
医療器具が転がっており、一体何をしていたのか問う。
米谷「こ、これは………!」
周りを警戒していたが脱出の事を考え集中しすぎて接近に気づかなかった。
上村「…………」
今まで上村は一人海の見える森の中で体育座りしていた。
どうして自分がこんな地獄に投じられたのか分からず負の感情が増長する。
日常で抱いていたメンバーへのほんの些細な不満が爆発する。 虹花は、バカ女。
頭が悪いから空気読めないし、現場が白ける。
そこまで大したことないのに演技っ気があるとか言われて調子乗るの止めな。
今泉は、情緒不安定女。
私がイジメたとかネットで叩かれ、休養したのも私のせいだと書かれてて訳が分からない。
あいつが休養したせいで残客がめちゃくちゃな脚本になって最悪の出来になったじゃない。
尾関は、気持ち悪い女。
仲良しだったのに気づいたらどっかに行って裏切った。
ちびま〇子ちゃんにしか見えないのに、なんで欅に受かったのか七不思議の一つだ。
たまにする気持ち悪い動きするの止めな。
美波は、関西カラコン女。
この子に限ったことじゃないけど、でっかいカラコン入れなきゃ生きていけないのかな。
似非関西弁に関して血相を変えて怒るけど、自分も「滑舌できませ〜ん」があざとすぎてバカみたいだから止めな。
由依は、ビジネスぼっち女。
さっぶいブログの出だし書いて、すかしてんじゃねんだよブス。
推しはみんなB専で間違いなし。
冬優花は、ダンス女。
ブスだから欅全体で人気最下位だからダンスで頑張るしか能がないから可哀そう。
人気メンにすり寄って、おこぼれをもらおうとするの止めな。
詩織は、話が長いわがまま女。
自分の言いたいことは言わないと気が済まない超絶自己中な子。
話長くするの止めな――かったらから首輪吹っ飛ばされたんだ。 愛佳は、顔デカ性悪女。
私の事をババアとかオババとかうるさいんだよ。たった2こしか違わないのにしつこいんだよ。
基本人の悪口しか言わず、そのくせゴミみたいなロケしかできない。完全に欅のガンだから欅辞めな。
友香は、馬大好き金持ち女。
金持ちなのは親のおかげなのに調子こいてる。きっと欅に入ったのも審査員を買収したに違いない。
本気で滑舌が悪いしキャプテンに向いてないから止めな。
鈴本は、居眠り不貞腐れ女。
現場の入り前や休憩中にいっつも寝てて、どんだけ寝れば気が済むの?夜に何やってるの?
紅白という大舞台で口パクだったのにご自慢のダンスで過呼吸になってるのほんとに意味わかんない。
ダンスメン名乗るの止めな。
菜々香は、大口大食い女。
永遠に食べてる的な大口叩いてた割には、ひらがなの子に余裕で負けてるし口だけじゃん。
大食いキャラ名乗るの止めな。
ねるは、不正加入ゴリ推し女。
あのタヌキはSRで秋元先生が来た時だけぶりっ子して、いなくなった途端友香をイジメてて不愉快だ。
紅白の時も平手が倒れて一番近くにいたのに何もしなかったから私が助けに押し退けてやったんだ。
土生は、のっぽ女。
身長170cm以上ってアイドルの身長じゃないから。
モデルを期待されてたのに理佐と梨加に先越されてどんな気持ち?
アニヲタでたまにコスプレしててマジキモいから。
しかもアニメ声だからって理由だけでラジオもやっちゃってるし、おバカ丸出しなんだから止めな。
茜は、無添加大好き努力女。
努力は悪いことじゃないけど、負けず嫌いなわりに負けると判ると勝負を降りるような口だけなやつだ。
副キャプテンという聖職だからって調子こいている。実質何もやってないからいっそ止めな?
梨加ちゃんは、ただのパワー型池沼女。
普段は普通なのに、番組になると恥ずかしがり屋さん演じて小声で喋るキャラもう飽きたから止めな。
理佐は、小顔モデル女。
欅で一番の小顔だからモデルに選ばれただけなのに気取ってる。
私も齋藤飛鳥さんに憧れて、いつかモデルになった時のために撮影のこととか聞いてみたら「ウザい」と見下された。
お高くとまりやがって、いつか飛鳥さんみたいな写真集出して見返してやりたかったのに――。 上村(そして、目の前にいるのは冷徹潔癖微生物大好き女――米谷奈々未!)
米谷の後ろに誰かが倒れている。まさか殺していたのか。
優しさに定評がある米谷なら一緒にいてくれると思っていたから声をかけたのに。
上村「な、何してるのっ!?」
米谷「いや、これは……その……っ」
背中に隠れている倒れている誰かを見るため、ふらふらと近寄って来る。
米谷(アカン!これ以上近寄られると……)
米谷は恐れていた。
第二者が見て実況し運営側にこの状況がバレてしまうことを。
チョーカーにはマイクが仕込まれているから余計なことを喋らせないために銃を取り出す。
米谷「止まれ……!」
上村「ひぃいっ……!?」
守屋が握りしめていた銃を借り上村へ向ける。 フリーズする上村は訳が分からず理由を訊ねる。
上村「なんでっ、どうしてぇ!?」
米谷「来るな。行ってくれ」
上村「そのメンバー誰!?米が殺したのっ?!」
米谷「いや、うちやない」
上村「じゃあお願い一緒にいてよ!!もう怯えるのはやだよお!!」
兎の心を持つ上村は寂しがり屋で、メンバーを求めて行動に出たのだ。
些細な物音にも反応し、一睡もできず疲弊しきっていた。
米谷「ダメや……!あんたは信用できひん……!!」
上村「!!??だからなんでなのおっ?!」
米谷「……お願い。どこかに消えて!」 上村「あッ」
上村は自分の手に持つ物を見て気づいた。
米谷「!?」
カランと金属物が地面に落ちる音がした。
上村の足元には二つの手裏剣が落ちていた。
上村「ほらぁ!!!私、敵意なんて全然ないよおっ!」
身の潔白を証明するために敵意がないことを示す。
しかし米谷の答えは変わらない。
米谷「ダメや!そういう問題やない……」
上村「ぉ、お願いだから一緒にいようよぉ!!」
上村はさらに近づいて来る。
米谷「……!」
なりふり構わず足元に向けて発砲する。 上村「ォだヱり!?」
本当に撃ってくると思っておらず変な声が出て、地面にへたりこむ。
威嚇射撃が成功し、上村の動きを封じた。
上村「………っ」
上村は米谷に殺意がないことは判った。
殺すつもりならとっくにあの世に逝っているはずだ。
上村(じゃあ、なんで……?私ってそんなに信用ないのっ!?)
自分に落ち度はないか正常ではない脳内で考える。
上村「あっ……もしかして――」
米谷「……え?」
上村「棚を、工具を使わぐ手をトンカチのようにして組み立てた……!」
米谷「ん……?」
上村「私が……"手トンカチ"を……持ってるからっ!!」
米谷「は?テトンカチ?」 上村「手トンカチを捨てるからっ!一緒にいてよおっ!」
米谷(こいつ……いよいよあかんな。こんな状況やからしゃーないとは思うけど、早くここから離れないと……)
泣きながら少しずつ歩を進めて来る。
米谷「来んなッ!!」
上村「ナぎィ!!」
威嚇射撃は来なかったが、死体の顔が見えるところまで来た。
上村「に、虹花ぁ…………!?」
分校で佐藤の首が吹っ飛んだことを思い出す。
何故なら石森も同様に生首になっていたからだ。
様々な疑問が押し寄せ、もはやパンクしていた。
米谷(しまった!!バレた――)
視線を米谷の方へ戻すと、異変に気付く。
上村「あっ」
離れようとすると突然上村が得意の指差しをする。 米谷「ん?」
それは自分ではなくはるか後方を差していた。
振り返ると山から駆け降りて来た平手が機関銃をこちらに構える。
米谷「!!!」
間髪入れずにダラララララララと躊躇なく火を吹かせる。
米谷は石森の死体を盾に、後ろにいた上村は米谷の後ろへ入る。
米谷「づッ!」
上村「ぎゃッ!!」
ほとんどの弾は死体に吸い込まれたが、一発は米谷の右脚を掠め一発は上村の左腿に被弾した。
上村はその場にうつぶせに倒れこんだ。
米谷(上村!!それより――)
上村の心配を後に、今は殺人鬼の相手をしなければ自分が死ぬ。 米谷「平手ェ!!」
平手「!」
叫びながら銃を向け、敵が躊躇わなかったように撃つ。
平手は銃の向きから弾道を読み横へ動いて避け、再び機関銃を向ける。
米谷(ここまでか……!!)
平手「…………よ……ね」
米谷「!?」
辛うじて声が耳に届いたのは、自分の愛称だった。
平手は機関銃を向けたまま固まり、動かないでいる。
米谷(撃って来ない!?どうする、話を……いいや、ここは――)
荷物を放棄して右手に血液パック、左手に拳銃を持って森へ逃げる。
平手は目で追うだけで撃ちもせず、結果からしてみすみす逃がした。 平手「…………」
米谷を追わず、もう一人の倒れている上村の元へゆっくり歩を進める。
腿を撃たれた上村は指一本動かないでいる。
上村(痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!ああああああああ脚があぁああああああああはは――!!!!)
本当は激痛にのたうち回って痛がり同情の的になりたいのを必死に我慢する。
上村(ひ〜ら〜て〜〜〜っ!!!!!このクソガキぃがぁあっ!!!!!)
平手は、中二病わがまま女。
お前なんかあの時○○野郎に殺されれば良かったんだ。
元はと言えば、平手が病んでから欅は下り坂になった。
欅が殺し合いさせられているのもこの私がこんな目に合ってるのも全部こいつのせいだ。
上村(来い来い来い来い来い!!!!!死んだふりをして死を確かめに来たところに両目へ手裏剣を投げつけてやるぅー!!!)
平手「……」
死んだふりをする上村の左側に立ち、じっと見下ろす。 上村(よ〜〜し。今だ!!!!)
気配で自分のすぐ左側にいることを感じ、一気に上体起こしをする。
上村「えーいっ!――えっ?」
先程まで平手がいたはずなのに忽然と姿が消えていた。
上村(いない……。米を追いかけた?てことは、私……助かったんだっ!!)
生き延びれたことに心底安堵し、ここに来て初めて妖精のような顔を見せる。
ふっと月明かりに影がかかると同時に頭部に何かが落ちて来た。
上村「えふっ」
平手が降って来て、日本刀を脳天から串刺しにした。
上村莉菜は目と鼻と口と耳から血が溢れ出て、悪魔のような顔で昇天した。
頭から日本刀を引き抜き、血を振り払ってから鞘に納める。
足元には上村と石森の死体が仲良く転がっている。
自分が殺めた二人を見つめ、その場を後にした。 そこから200メートル離れた森の中で米谷は座っていた。
米谷「上村……、ごめんな……。うちのせいで……」
おそらくもうこの世にはいないであろうチームメートに懺悔する。
米谷(威嚇射撃した時の銃声を聞きつけてすっ飛んだ来たんやな……。平手、うちを追って来なかった……。うちのこと――)
認識してから撃って来なかったのではないか。
それともただ弾切れしただけなのかもしれない。
米谷(ありがとう、虹花。おかげで脱出できるかもしれない)
遠く離れてしまったが遅れて礼を言い、ポケットからチョーカーを出してみる。
米谷が石森の首を切断したのはチョーカーを回収するためでもあった。
守屋を助けるため採血もでき一石二鳥になった。
撃たれた脚の止血と簡易処置を終えて立ち上がる。
太い枝を杖にして、瀕死の患者が待つ診療所へ帰る。 ・・・・・・
23:00
十三番長沢菜々香と二十番渡辺梨加はゲーム開始直後から一緒に居た。
夜明け頃に北西に位置する神社で遭遇していた。
支給された二人の食料はほとんど長沢の胃の中に納まり底をつく。
長沢「お腹すいた」
殺し合いの最中であっても空腹には耐えらなかった。
明日の24時までにたった一人にならなければ全員が死ぬ。
制限時間を待たずして飢え死にする前に、食料を求め拠点にしていた神社を後にする。
渡辺「みんなどこにいるんだろう?」
長沢「とりあえず灯台に行こう。誰かいそう」
渡辺「……東、大?」
長沢「人もいれば食料もまだ余ってそうだし、脱出できるかもしれない」
渡辺「ん?……だっしゅつ?」
脱出の事を全く考えていなかった渡辺はピンと来ていない様子だ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています