最近、というかあれから俺は眠れていないんだが、お前さんはちっとも夢に出てこないな。
ああ、そうか。不眠症治ったんだな。良かったじゃないか。
ただ、昼間に良く合うよな。
しかし、勝手に俺の車の助手席に乗っているのはどういう了見だ? 
会社には来るなと言ってあっただろう。
工場の中にも入ってきやがって。危ないじゃないか。
帰りも律儀に車で待っているよな。まったく、変な奴だよ。
しかし、お前さん、最近良く笑うよな。あのころは泣いてる顔ばかりだったから嬉しいよ。
鬱も治ったんだな。しかし、お前さん、どんどん若くなるのは何故なんだ?

ああ、そうだ。お姉さん、最近親父さんのところによく行っているよ。あんなに嫌ってたのに。何でだろうな。
親父さん、また酒飲んでるんだとよ。まあ、アル中だからな。しょうがないか。
俺はもう、正直あの家族のことはもういいよ。
お前さんと一緒に養う予定だったんだけど、お前さんがいないんじゃ、その気も失せた。
お前さんに聞いていた以上に、最低の奴らだった。
お前の叔父さん? ってやつ? 通夜の日にお前さんの悪口を目の前で言ってたんだ。
とりあえず睨んでおいたから。
ああ、それとお前さんの位牌、一月も立たずに廃棄されたんだぜ? 知ってたか?
いらないんで、処分してください、だとよ。納骨堂の事務員が吃驚してたぜ。
まあ、俺が拾ってやったから気にするな。さもなきゃ、今頃焼却炉の中だ。
お前さんの骨はお母さんの隣に置いてあったよ。流石にそのくらいの感性はあったんだろうな。
よかったな。これで、お母さんといつも一緒だ。淋しくないよな? ちなみに、俺もひとかけら、お前さんを頂いたから。ごめんな。
今は俺んちの仏壇だ。俺の母ちゃんは喧しくなんか騒いでたけど、一喝して黙らせたよ。実質、そうだったからな。何の問題があるんだ?
ああ、49日っていうから電話したら、お祖母さんが来るなとよ。ほら、お前さんが「あれでも育ての親」と言ってたお祖母さんだ。
でもな、お義姉さんが来てくれ、って言うから行ったよ。
そうしたらさ、お前さんの遺影は処分されてたよ。仏壇の前には花も果物も、全くなかったさ。
もはや、何の感想もなかったよ。涙も出なかった。
俺はお前さんの好物の甘栗を買って行ったんだ。
あとで聞いた話だがな、こんな安物で人の家に上がるなんて私にはできない、って言ってたんだと。
お義姉さんから聞いたよ。

まあ、いいさ。いつでも相手するから。いてくれていいよ。
と、いうかさ。
医者が言ってたんだけどな、俺、PTSDなんだと。
ほら、お前さんが俺の目の前で、好き好き愛してる、とかなんとかほざいて首なんか絞めるから。

まったく。
もう、忘れたくても忘れられないんだとよ。
それでも、俺はお前さんを愛してる。
だからさ。これからも宜しく頼むよ。見ててくれよな。