宮崎監督もまた「アニメアニメした声」が嫌いなことで名がとどろいていますが、その声に対する好みと選択はいろいろと波紋や話題を呼んできました。
藤津さんの質問も自然とその方向へ。斯波さんが言及したのは、コピーライターの糸井重里さんが演じた「となりのトトロ」のお父さん。

「この役はあの人しかいない、と僕が考えていた役者がいたんですが、宮崎さんは最後までウンと言わない。そして突然『糸井さんはどうですか』と言われた。
え〜っ!?と思いましたけど『そうおっしゃるなら……ただやっぱり心配なので声を録(と)らせて下さい』と返事して、
『デンスケ』(携帯録音機の名機)を担いで糸井さんの事務所へ行きました。聞いてみると『ああ〜なるほど!』。
声優さんがやると普通のお父さんになってしまう。僕はその普通でいいと思ったけど、宮崎さんは違っていた。
宮崎さんの作品の中には、お母さんとかお父さんとか自分の肉親の誰かをモデルにしたキャラクターがあって、
声もちゃんとイメージしたものがある。それが当時の僕には分かっていなかったんです」

「宮崎さんはどうしてもアニメ的な匂いのする声や芝居が受け入れられないところがあって、うーん、これは言いたくないんだけどねぇ……。
まあ、言っちゃいましょうか、庵野さんの芝居ですよ(注:「風立ちぬ」で主人公の声を当てた庵野秀明さんのことです)。声のトーンや質は宮崎さんの創った堀越二郎にピタッと合ってる。
確かにいいんです。こういう声の人は声優にはいないよな、っていうのは分かる。でもやっぱり大事なセリフが単調で、観客の心に入ってこない。はっきり言えば棒読みでしょう」

http://www.asahi.com/articles/ASK2S5753K2SUCVL021.html