七海の「目」が戻らない
およそ感情なんて元々無かったような黒い目
いったい俺の七海に何をしたんだ、美海
そうだ!親友気取りの愛理なら何かミラクルを起こしてくれるかも
そんな藁をもつかむ思いで愛理に電話をかけた
「ナイスタイミング!今、七海が部屋の前に来てるんだけど、いつもと様子が違うみたいなの。
ドアスコープから覗いたら、スコープ穴いっぱいに黒目なの。何あれ?
君(俺)七海に何かした?」
「よく分からないんだ。美海が関係してるのは確かだけど」
「え?よく聞こえない、美海がどうしたって?ピーーー……プツッ」
「ちょっ待てよっ、愛理?愛理ーーっ」
嘘だろ。
無我夢中で愛理のアパートへ走った
童貞を捨てた時のめちゃくちゃな腰のピストン運動のように無我夢中で…
待ってろ愛理、七海。
そこの角を曲がれば愛理のアパートだ
曲がり角の電信柱の陰から注意深く確認する
アパート前では子供達と老婆が上を見上げてる。愛理の部屋か?
一体何が?
恐る恐る近付き声をかけようとした時老婆が言葉を発した
「子供達よ。わしのめしいた目の代わりによく見ておくれ」
子供達が口々に言う
「愛理姉様、真っ青な異国の服を着ているの。金麦も持ってるみたい。」
老婆が呻く
「おおおお、そのもの青き衣をまといて金麦の野に降り立つべし。おおおお、古き言い伝えは真であった。」
ドクン!
さっきの曲がり角の電信柱の上から視線を感じた
見てはダメだ。
が、強く念じても見ずにいられない。
そして目が合ってしまった。
二つの…いや四つの…
フクロウのような黒目の大きい、吸い込まれそうな漆黒のブラックホールのような無機質な目
美海と…
七海だ…
まるで電信柱を止まり木にしている様に…
「な、何なんだよ。何がしたいんだよ」
俺は絶叫した。半分涙声だったかもしれない。

「ガハハハハハ」

嘘だろ?
俺の真後ろから聞こえてくる。
背中に冷たい汗が流れた。
振り向くといつの間にか後ろにいた愛理が漆黒の目で笑ってる。
腹に響く、まるでタンバリンのような笑い声。
「お前まで…お前まで…」
俺の中で何かが音を立てて壊れた