高谷玲子の遺作「悲しからずや」を図書館で入手して読んだ.

「マリコ」の世界とは全く逆の,救いのない陰惨な話であることに驚いた.
頭がよく誇り高い主人公「三千絵」は職を失い無気力な父,無力な母,病気
の妹など家族の貧困故に高校普通科への進学を諦める.進路決定の時期が
ずれたため正社員に採用されず,定時制高校に通いながら任期付きの
パート・アルバイトを転々とする.さらに高校は義務教育でない故に在学
していると生活保護が受けられないことを通告され,高校を中退し
家を出て住み込み女中となり,次第に精神の自由と誇りを奪われて
無気力に堕ちてゆく.

「マリコ」の白石委員長の分身と思われる人はここでは三千絵に
あこがれつつもその転落を救う術を持たず傍観するしかなく,最後は
三千絵に失望し去って行く元同級生として登場する.

「マリコ」が著者の一つの分身であるのと同様に,「三千絵」も
また著者の別の側面を体現する分身のようだ.この救いのない
陰惨で哀しい話もまた著者の吐き出したい思いの結晶だったのだろう.

ただ,この本は磨き上げる前の原石で,完成度があまり高くない.
多分あまり売れなかっただろう.だから古書としてもほとんど
流通していないんだと思う.しかし,高谷玲子ワールドは幅広く奥深い
ものだったことがわかる.夭折が本当に惜しまれる.