大学院退学し漁師に 七尾の魚に感動

 金大大学院博士課程で物理を専攻する学生が突然退学し、七尾で漁師になったと聞いた 。
難解な理論と格闘する研究者が、鋭い勘と体力が必要な漁師になるなんてにわかに信じ がたい。早速漁港を訪ねた。(安田哲朗)
 七尾市東部の崎山半島にある定置網水産会社「鹿渡島定置」の事務所を訪れると、
漁を 終えてくつろぐ漁師の中に、黙々とパソコンに向かう栗原智章さん(31)がいた。
2009(平成21)年に金大大学院博士課程を中退し、同社に入社。以来、漁師として働い ている。

 「ベテラン漁師と食べた朝ご飯のおいしさに感動した。七尾の海に魅せられたんです」 と入社動機を語る。

 栗原さんは栃木県岩舟町生まれ。漁とは無縁の環境で育った。金大理学部卒業後、同大 大学院に進学し修士号を取得。
博士過程に進み、研究者として身を立てるつもりだった。

 しかし、リーマンショックによる深刻な就職難に動揺。たまたま見た県漁協のホームページで漁師に興味を持ち、同社を軽い気持ちで訪ねたところ、
水揚げされたばかりの魚で 作った朝食をごちそうになり「漁師になろう」と決意したわけだ。

 剣道2段で体力に自信はあったが、漁に出てから腱鞘(けんしょう)炎を患い、腰を痛 めるなどさんざんだった。
しかし今ではすっかり慣れ、船の機械修理もしている。

 酒井秀信社長(62)によると、定置網漁は気力と体力だけでは成功しないそうだ。
力学に裏打ちされた理論に基づいて糸を選び、編み目を調節して仕上げた網を張る。栗原さ んは理系の知識を生かして酒井社長が長年かけて築いた理論を習得。
船頭に継ぐ幹部とし て七尾の定置網漁の発展に尽力している。

 水揚げされた魚や新商品などをブログやツイッターで紹介し「七尾の魚が日本一である ことを全国に伝えたい」と栗原さんは意気込む。
理論派の若手漁師の夢は、海のように大 きい。

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