【姉御】篠原美也子のANN【110番】
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93年秋から2年間、水曜2部で放送されていたこの番組。
「モテない、金無い、受からない」のキャッチコピーで、男子浪人生などに人気を博しました。
主なコーナーとして、リスナーからの投稿によって小説を完成させる“篠原美也子文庫”、
篠原美也子作成の珍妙なグッズをプレゼントする“ミヤコロンドン”などがありました。
篠原美也子オフィシャルサイト room493
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Guitar/3094/
http://www.room493.com/
現在放送中、篠原美也子のありえない日々(WEBラジオも聴けます)
http://www.tbc-sendai.co.jp/fr_02radio.html
邦楽板の本スレ。
【二年目母さん】篠原美也子with龍part5【大奮闘】
http://music2.2ch.net/test/read.cgi/musicj/1067214023/ 真夜中の昔話
鶴太郎 −第五話−
すると、牢屋に一人の男が現れました。
「おまえが鶴太郎か?俺はタノムサク。一緒に鬼塚を倒そうぜ」
と言うや否や、タノムサクは持ち前のパンチ力で牢屋を壊し、
二回連続疑惑の判定負けの恨みを晴らすかのように手下の鬼を倒し続け、
ついに敵は鬼塚一人だけとなりました。
そして、タノムサクは“清酒 鬼殺し”と書かれた一升瓶の液体を口に含み、
鬼に吹きかけました。
すると、鬼塚は苦しんで倒れてしまいました。
他の人がいくらやっても倒せなかった鬼塚を倒したのです。
鶴太郎たちが驚き呆然としていたのに気付いたタノムサクは体がまっぷたつに割れ、
中からなんと篠原美也子が出てきたのでした。
「驚いた?手柄は私のものね」
と言い残し、動物と共に去っていきました。
このキジは後に“柿島 伸次”と名乗り、
犬と猿は風の便りでは犬山モンキーパークを建設したそうで、
鶴太郎は一人さびしく悲しんだとさ。
おしまい。 文庫懐かしいなぁ。
今読んでも美也子さんが鼻をすする音も聞こえてきそう(笑)
夜から朝に変わる曖昧な時とともに‥‥‥お疲れさまです。 真夜中の青春小説
春になれば −第一話−
卒業式を終えたばかりの校庭には、卒業生を囲む後輩達の輪がいくつもできていた。
色紙や贈り物を渡す者、第二ボタンをねだる女生徒、涙、歓声。
声にならないざわめきの中で、僕は男子バスケ部の先輩達と握手を交わしながら
誰にも気付かれないようそっと体の位置をずらした。
たくさんの背中のむこうに、卒業証書の筒と一輪のカーネーションを抱え、
やはり多くの後輩達に囲まれている彼女がいた。
懸命に笑顔を作ろうとしながら涙をこぼしている彼女。
入学したての春、何気なく覗いたバスケ部の練習で彼女を見かけ、僕はすぐに入部手続きをした。
あれから二年。
誰にも話したことはない、特別な言葉を交わしたことも、まして打ち明ける勇気も持てないまま、
彼女--美也子先輩は四月から高校生に、僕は中学三年生になる。
こんな特別な春があるなんて。
キャプテンの後藤先輩の挨拶を聞きながら、僕はいつまでも美也子先輩の横顔を見ていた。 真夜中の青春小説
春になれば −第二話−
その美也子先輩に告白できないまま時間だけが過ぎた。
今は三年生最後の夏。
全国大会の予選が始まっている。
我がバスケ部は何とか勝ち進み、あと一つ勝つと全国大会に手が届くのだった。
学校ももう休みだが、今日も朝から練習をしている。
暑い中の長く苦しい練習でやっと昼になった。
「んぐぐ、はぁ、うるさいセミだなあ」
「そうだね」
蛇口の横に現れたのはバスケ部のマネージャー、麻衣子だった。
彼女は美也子先輩の妹であり、唯一僕がまともに話をできる女性だった。
「あと一つで全国大会だね」
力強く彼女は言った。
「そうだね」
僕は空返事だった。
「またそんな顔して」
続けて麻衣子は言った。
「今度の試合、お姉ちゃん見に来てくれるらしいよ」
思いがけない出来事だった。
僕の胸は高鳴った。
そして絶対に勝とうと思った。
「少しは元気でた?」
そう言った麻衣子の顔を見ると嬉しそうでもあり悲しそうでもあった。
しかし、今の僕には、彼女の複雑な顔は目に入っていなかった。 真夜中の青春小説
春になれば −第三話−
木々の葉が散り始めた。
僕の心の木はとっくに枯れていた。
あの全国大会の予選の決勝の日、僕は客席で美也子先輩が応援しているのを見て燃えた。
しかし、ダメだった。
その時、ふっと美也子先輩が見せた淋しげな表情が頭に焼き付いて離れない。
美也子先輩の夢も、僕の夢も崩れてしまった。
今日は秋も深まった日曜日。
なんだか僕は歩きたくなり、別に目的もなく学校へと歩いていた。
「もう受験だなあ」
とつぶやくと、
「お姉ちゃんの学校受けるんでしょ?」
と言う声がした。
振り向くと麻衣子だった。
図星だったため僕が何も言えずにいると、
「しっかりしてよ片山君、あなたらしくないわよ」
と麻衣子が言ってきた。
僕が黙っていると、
「私は元気いっぱいの君が好きなのよ」
と言って、にっこりと笑った。
その表情がとても可愛かった。
僕が呆然としていると、麻衣子は駆け足で行ってしまった。
突然の麻衣子の告白で、僕は麻衣子をただの友達と見れなくなった。
心の中は散らかっていた。 真夜中の青春小説
春になれば −第四話−
まだ心の整理がつかないまま、ただ時だけが流れた。
今夜は聖夜。
ライトアップされた街の光を受けて、僕はすれ違う恋人達を後目にただ一人歩いていた。
しかし、聖夜という華やかな雰囲気とおは対照的に僕の心は迷いに満ちていた。
数分後、僕は校庭のバスケットコートに立っていた。
特に理由はなかった。
ただここに立っていると何もかも忘れることができると思ったからかもしれない。
何気なく周囲を見回すと、しまい忘れたボールがひとつ、淋しそうに転がっていた。
僕はそのボールを取り眺めているうちに、美也子先輩のことを想っているときの自分と、
麻衣子に告白され異常に胸が高鳴ったときの自分が交錯し、どちらが本当の自分であるか
判らなくなっていた。
ティン、ティン。
ボールをつくうちに麻衣子のことばかり考え始めている自分に気付いた。
その夜以来、麻衣子のことを考えている時間が増えたような気がする。
そして、今までもつれていた心の糸が次第にほどけていった。 真夜中の青春小説
春になれば −最終話−
麻衣子は順当に、僕は奇跡的に美也子先輩の高校に合格し、晴れて卒業式を迎えた。
式典後、校庭は別れを惜しむ生徒でざわめいていた。
そんな涙と歓声の中、ぽつんと麻衣子が僕を見つめていた。
麻衣子は弱々しい目で近づき、
「片山君の気持ちは、私じゃなくお姉ちゃんに向いているのはわかってたんだ」
と切なく呟いた。
そして、駆け足で去っていこうとする。
麻衣子は気付いていたのだ。
しかし、聖夜以来、僕は麻衣子を誰よりも大切に想い始めている。
「違うんだ」と言ったが声が届かない。
後姿がどんどん小さくなる。
今、この瞬間に気持ちを伝えなければ、ボタンの掛け違いのように
互いの感情がずれていってしまう気がした。
その時、ふっと全国大会予選の決勝で美也子先輩の応援する姿が頭に浮かんだ。
"がんばれ、片山君"
と、あのときと同じ声援がどこかで聞こえた。
その一言でなりふり構わぬ勇気が湧いた。
僕は麻衣子の心を離すまい、と思った。
そして、桜並木を走る麻衣子を追った。 真夜中の青春小説
「たったひとつの朝を待つ幾つもの夜」−1−
何から書けばいいんだろう。
何を書いても、「何故?」と問い返されそうで、正直、僕はひどく考え込んでいる。
始まったばかりの予備校生活は、ひとまず順調。
積極的に友達を作る雰囲気ではないにせよ、帰り道、ファーストフードのコーヒーを片手に
あれこれ話をする程度の友達はできた。
今年スベッた大学にも「一浪すれば確実」と言われている。
「何かあったのか?」と聞かれれば、「何も無かった」と答えるしかないだろう。
けれど、気持ちを痛めるものが必ずしも大きな傷口とは限らない。
流行のドラマみたいに派手に傷つくことができれば、大声で泣いたり、
誰かに助けを求めたっていい。
辛いのは、人に話すほどじゃない、まして、涙なんか流すのははずかしいかすり傷だからだ。
僕は逃げようとしているんだろうか?
戦おうとしているんだろうか?
負けなんだろうか?
それとも勝とうとしているんだろうか?
死んでしまいたいということは、一体どちらなんだろうか? 真夜中の青春小説
「たったひとつの朝を待つ幾つもの夜」−2−
"死"というものに"夜"というイメージを持つようになったのは
いつの頃からだっただろうか。
"死"というものを知って間もない頃、
それは眠りの延長のようなものだと何となく思っていた。
眠りはまず資格から失い、
その後、聴覚やその他の感覚と共に意識が薄れていき、
やがて深い闇の中に滑り落ちるように消えていく。
そして、気がつけば朝というものであり、
"死"はその眠りから朝を取ったものである。
こう考えていたのだ。
このころから"死=夜"というイメージが頭の底にこびりついたのだろう。
それから今までに、死んだほうがましだ、と思うことが何度かあった。
もう、これ以上悪いことはあるまい。
そんなとき"死"はたまらなく甘く、誘惑に満ちたものに思えるのだ。
そして、今、その甘い誘惑に翻弄されそうになっているのも事実だった。
ただ、「何故?」と聞かれても本当に解らないのだ。
理由があったとしても、それはきっと些細なことなのである。 夜から朝にかわる曖昧な時とともに… 篠原美也子のオールナイトニッポン
真夜中の青春小説
「たったひとつの朝を待つ幾つもの夜」−3−
僕の命とは一体何なのだろうか?
18年間の僕の人生を振り返ってみる。
その中には、過去の僕がやった様々な出来事が"記憶"としてある。
そして、これからも僕はもっと多くの出来事を"記憶"として積み重ねていって、
その積み重ねの集大成こそが僕の命そのものなのだろう。
だけど、それの完成と同じくして、僕は"死"というものを迎える。
だから、僕の命すべてを振り返ることは誰にも、僕自身でさえ、出来はしないのだ。
それなら、僕の命なんて何の意味もなさないものなのだろうか?
そんなもののために僕は今までも、これからも、
幾つもの夜を数えていかなければならないのか。
朝が決して訪れないことを解っていながら。
死ぬということは、この行為に自ら幕を引く儀式に思える。
そして、その時、その言葉は何かしら厳粛で魅力ある響きを放つのだ。
今、僕は訳もなくその魅力に惹かれているようだ。
少なくとも、今それを否定する理由なんて、今の僕の心にはないのだから。 真夜中の青春小説
「たったひとつの朝を待つ幾つもの夜」−4−
僕は朝を待つ。
"死"とは本当に闇なのだろうか?
"朝"は本当に生の証なのだろうか?
"死"は生きている僕の無い物ねだりなのだろうか?
僕は生きたいのだろうか?死にたいのだろうか?
死ぬために生きているのだろうか?
"生命"とは活動する肉体なのだろうか?
それとも"記憶"という色が無ければ全くの空白であるこの精神なのだろうか?
"生"とはこの世界からかたちを持った"固体"として存在することなのだろうか?
"死"とはこの世界からかたちをなくし世界に溶け込むことなのだろうか?
それとも、完全なる発生、完全なる消滅なのだろうか?
生物は何故意味も無く存在し続けるのだろうか?
それとも何か重大な意味があるのだろうか?
"死"は"無"なのだろうか?
"死"が"無"であるなら、何故、"死"は存在しているのだろうか?
世界には"有"のみが在る。
それだけなのだろうか?
世界にはいずれ"朝"が来る。
しかし、僕には、まだ夜明けは来ない。
僕に"朝"が来た時、果たして、僕は在るのだろうか? 大部分の人にとって、生は死の対極としての生に過ぎないのかもしれない
生を積極的に生きるということは、結構むずかしい
真夜中の青春小説
「たったひとつの朝を待つ幾つもの夜」−5−
幾つもの夜が過ぎ、幾つもの朝が訪れる。
月日は流れていった。
僕は二十歳になった。
今、この年齢なりにいろいろ考えてみると、
人は大人になるとき、ピュアな心を失う。
たとえ、その心を持ち続けたいと願っても、
それが叶わないことを人は無意識のうちに知っているから、
それに抵抗する手段として理由のない"死"への憧れを抱くのだろう。
死ぬことに憧れる気持ちは、
子供の頃にかかる"麻疹"のように誰の身にも訪れる。
そして、その思いが去ったとき、人は大人になるのだ。
たった一つの朝を待つ幾つもの夜が終わりを告げたとき、
僕は理由の無い"死"への憧れが、心から過ぎ去っていくのを感じた。
そして、もう二度とあの頃の自分には戻れないということを実感した。
たとえ、人の命が朝には生えいでて栄え、夕べには刈られて枯れる青草のようであっても、
春には花を咲かせ、夏にはしぼむ花のようであっても、
"記憶"の中でしか存在しないあの頃のことを、僕は生涯忘れることはないだろう。 真夜中のラブレター小説
「あなたに会いたい」−1−
前略
突然手紙なんか書いて、きっと驚いているだろうと思います。
あなたが会社の研修で札幌へ行って二ヶ月。
料金を気にしながらでも、慌しくても、声が聞ける電話はうれしい。
だけど、いつも一番大事なことを言い忘れたようで、
一番言いたかったことだけ言えなかったようで、
受話器を置いたあと後悔ばかりしています。
顔を見ずに気持ちを伝えることがこんなに難しいなんて
あなたが東京にいたときには思ってもみなかった。
だから、おお見切ってペンを取ってみました。
いまどき手紙なんてはやらないし、うまく書ける自信もないし、
あなたの苦笑する顔が目に浮かぶようで照れくさいけど、
声にならなかった言葉を少しずつ書いてみるつもりです。
札幌は今一番言い季節よね。
東京は梅雨に入り、雨の嫌いな私には憂鬱な日々ですが、
とりあえず元気に仕事してます。
あなたも体に気をつけて、頑張って。
とても会いたい・・・それじゃ。 真夜中のラブレター小説
「あなたに会いたい」−2−
少し意外だった。
突然、君が手紙だなんて。
返事は電話でも良かったのだけれど、電話じゃうまく伝えられない気がして、
こうして僕も君に宛てて手紙を書くことにした。
東京はもう梅雨に入ったんだね。
北海道では梅雨というものがほとんどないらしい。
僕が君とはなれて、この札幌という街に来て幸せに感じることは、
食べ物がおいしいことと、君が雨の日に見せるあのあの憂鬱な顔を見ることができないことぐらいかな。
東京を離れてもう二ヶ月。
電話では言えないけれど、君の顔が見たい。
手紙は気恥ずかしくて、今まで書けなかった。
それから、君の言葉にならない気持ちは手紙で書くといい。
僕もそのほうが落ち着いて気持ちを受け止められる気がする。
手紙、うれしかった。
朝顔の種をもらったので一緒に送る。
気が向いたら植えてみてくれ。
毎日の生活は疲れることも多いけど、僕も頑張る、君も頑張れ。 あした?遠すぎて予想もつかないよ。きのう?忘れたなぁ。
あれ?今日の晩ご飯何食べたっけなぁ?
憎みきれないロクデナシ。篠原美也子のオールナイトニッポン!
真夜中のラブレター小説
「あなたに会いたい」−3−
前略
お手紙ありがとう。
不器用なあなたが私の好きな空色の便箋を選んだり、
あんなにしっかりした字を書くなんて少し意外でした。
もう気の合う仲間はできましたか?夜は安心して眠れていますか?
そして、札幌へ発つ朝にあなたが私に言いかけた言葉は何ですか?
毎日、あなたへの幾つもの問いかけといつか目にした場面に出会います。
あなたが傍にいたときよりも私はあなたのことを考える時間が多くなりました。
考えるよりも思い出すの方が当てはまるかもしれません。
あの頃にも戻れない、今のあなたにも会えない、その隙間はあまりにもひとりです。
でも、あなたと同じくらいに強くなれるような、素直になれるような気がして・・・
あなたも気持ちに余裕ができたらまたお手紙ください。
体に気をつけて。それじゃ。
追伸
さっそく朝顔の種を植えました。
花が咲いた朝、あなたが隣にいてくれたら、うれしい。 真夜中のラブレター小説
「あなたに会いたい」−4−
返事、遅くなってすまない。
忙しかったと言えば忙しかったが、
本当のところ自分の気持ちをうまく文にできずに悩んでいた。
今朝、北海道では珍しく雨が降った。
それと同時に、君の憂鬱な顔が浮かんできて、
会いたい気持ちで胸がいっぱいになった。
東京はもう梅雨が明ける頃だろうか?
夏に向け、君の憂鬱な顔が笑顔に変わると思うとなんだかうれしい。
札幌に来てもう四ヶ月。
東京と札幌という遠距離になってしまったが、
この遠い距離が二人の気持ちをより確かなものにしてくれたと僕は思う。
君がまいた朝顔の種は順調に育っているのだろうか?
来月の君の誕生日に東京に戻る。
二人で朝顔が咲くところを一緒に見れたらいいと思う。
もし二人で朝顔の咲くところを見ることができたら、
札幌を発つときに言いかけた言葉を言うつもりだ。
東京に戻る日までの残りの日々をお互い頑張ろう。
君と二人で会える日までに朝顔が咲いてしまわないことを祈って。 前略
ふふっ、懐かしい書き出しでしょう?
あの日、あなたの乗っていた飛行機が墜落したというニュースを
私は空港で知りました。
あなたが札幌に発つときに私に言いかけた言葉、
結局、教えてもらえずじまいですね。
ひどいよ。
私もあなたに伝えたいことがあったのに。
実はね、もうすぐ赤ちゃんが産まれます。
妊娠を知ったとき、あなたに知らせるかどうかすごく迷いました。
手紙なら言える気がしたけれど、
結局、勇気が足りなかったこと今少し後悔しています。
赤ちゃんは男の子だそうです。
あなたに似ているかしら?
だったら、きっとハンサムね。
例の朝顔の咲いたあとの種をとってあるので、
毎年少しずつ増やしていこうと思っています。
そうすれば産まれてくる赤ちゃんに、
あなたのことをいつも話してあげられるでしょう?
この手紙、街で一番高いマンションの最上階から紙飛行機で飛ばします。
あなたにちゃんと届くといいけれど。
それじゃ、また。 どっかに全作全文あがってなかったっけ。
故・鷺沢萠が来たときのテープがあるかもしれない。 >>71
昔は全作全文作者付のページがあったけど、今はもう無いと思う。
ところで、この"篠原美也子文庫"は全作やるつもりなのかな。 あと12作・・・。
続けようかどうか迷い中・・・。
邦楽版の姉御スレで不評だったので、少し落ち込みながら
こっちで続けることにしてみたけど、
やっぱり迷惑なのかな、などと思ってしまう。
それ以前に、スレの半分くらいが篠原美也子文庫になっていることに疑問を感じる。 乙です
ぜんぜん迷惑じゃないと思いますよ。というかせっかくなんだから続行きぼん
回の途中ではレスしにくいかもしれないね。
俺はレスは1〜2回しかしてないけど、のんびり見てますよ。
連休も終わったことだし、そろそろ続行することにします。 真夜中の野球小説
「ダイヤモンドダスト」 第一話
高三の夏はあっという間にやってきた。
「暑い」「去年とは大違いだ」とセカンドのポジションに向かって走りながら、
18になったばかりの和彦は思う。
雨に祟られた去年の予選。
県内屈指の左腕と評判だった二年生エース松本を擁し、優勝候補の一角にあげられた港高校だったが、
雨中、ぬかるみに足を取られた和彦のエラーによる失点が決勝点となり、二回戦で姿を消した。
トーナメントの厳しさを思い知らされた大会だった。
その後、松本の故障で選抜の夢も破れ、最後のチャンスとなる18の夏、
守備位置に着いた和彦は、軽く屈伸運動をしながらマウンド上の背番号『1』を見つめた。
松本とは中学時代からのチームメートだ。
故障も癒え、今大会では好投を続けている。
去年の痛恨のエラー、和彦は松本にまだ謝っていない。
二人そろって甲子園の切符を手にしたとき、初めて謝れるんだ。
準決勝、甲子園まであと二つ。
球審の手が挙がり、松本が振りかぶった。 >>70
その手紙に返信してみたいけど、なかなかうまく書けないわ ビ、ビビリました・・!!
こんななつかすぅいースレあったとは!!
発見記念カキコしときます。
確か水曜深夜でしたか?
ジュディマリも2部でしてた頃でしたよね?
思わずレス全読みしますた。 「ダイヤモンドダスト」第二話
一回戦からここまで、いずれも差をつけて勝利してきた港高校だったが、準決勝は一転投手戦となった。
特に松本は緩急使い分けた素晴らしいピッチングで、相手打線を完全に封じ込め、ここまで無失点。
港高校、1点のリードで、とうとう9回表を迎えた。
簡単にツーアウトを取った松本は、一つ大きく深呼吸すると、
セカンドベースをちらりと見た。
照りつける日差しの向こうでは、和彦も同じように深呼吸をしている。
ここを勝てば甲子園は目の前だ。
そうすれば去年のあの忌まわしい出来事だって笑って話せる思い出に変わるはずだ。
松本は帽子を深くかぶりなおし、プレートに足を乗せた。
最後のバッターが打席に入る。
松本は1球、2球と直球勝負。
あっという間にツーストライクに追い込んだ。
そして、3球目。
1球大きく外そうとしたボール球をバッターがフルスイングした。
乾いた球音を残し、打球はレフトスタンドに消えていく。
同点。
松本は打球の行方を見つめたまま動けなくなっていた。 「ダイヤモンドダスト」第三話
一回戦からここまで、いずれも差をつけて勝利してきた港高校だったが、
準決勝は、一転、投手戦となった。
特に松本は緩急使い分けた素晴らしいピッチングで、
相手打線を完全に封じ込め、ここまで無失点。
港高校1点のリードでとうとう9回表を迎えた。
簡単にツーアウトを取った松本は、一つ大きく深呼吸すると、
セカンドベースをちらりと見た。
照りつける日差しの向こうでは、和彦も同じように深呼吸をしている。
ここを勝てば甲子園は目の前だ。
そうすれば、去年のあの忌まわしい出来事だって、
笑って話せる思い出に変わるはずだ。
松本は帽子を深くかぶりなおしプレートに足を乗せた。
最後のバッターが打席に入る。
松本は1球、2球と直球勝負。
あっという間にツーストライクに追い込んだ。
そして、3球目。
1球大きく外そうとしたボール球をバッターがフルスイングした。
乾いた球音を残し、打球はレフトスタンドに消えていく。
同点。
松本は打球の行方を見つめたまま動けなくなっていた。 あっ・・・間違えた・・・・
もうずっと人大杉で・・・ごめんなさい。
ちゃんとした第三話は後日改めて・・・ 「ダイヤモンドダスト」第三話(訂正版)
内野手が駆け寄りマウンドに輪ができた。
仲間は口々に励ましてくれたが、もはや松本の耳には届かなかった。
呆然となったピッチャーは孤独だった。
ふと輪にひとり足らないことに気付いた。
和彦だった。
和彦は腕を組んだまま、こっちを見ているだけだった。
とたんに松本は気を取り直した。
周りの野手は松本の気持ちの切り替えに戸惑いながらも守備位置へ戻った。
「もう大丈夫だ」
と呟いた松本は次の打者を三振に押さえ全力でベンチに帰った。
松本は和彦に例を言いたかったが、いざ顔を見ると言えなかった。
いや、言うべきではないと思った。
試合は延長に入り、港ペースだった。
11回裏、和彦の二塁打を足がかりとして、サヨナラスクイズで勝利を収めた。
三塁から滑り込んだ和彦は土まみれだった。
ゲームセット。
港高校の校歌が流れる。
接戦を制したチームには団結力と勢いがついた。
高校生活最後の夏。
その夏もいよいよ本番を迎える。
「ダイヤモンドダスト」 第四話
決勝戦は雨のため順延された。
和彦にとっては去年を思い起こさせる嫌な雨だったが、
港高校にとっては連日熱投を続ける松本の方を休める恵みの雨だった。
翌日、どんよりとはっきりしない天気の中、港高校ナインはグランドに集結した。
この日で決まる。
それぞれに胸のうちには、今日まで勝ち抜いてきた自負、これから迎える決勝への不安、
甲子園への憧れなど、様々な想いがひしめいていた。
和彦は不思議な気持ちだった。
今は、以前感じていたような気負いもない。
ただ、今、この瞬間、この場所にいられることがうれしかった。
また松本の投球が見られることがうれしかった。
球状を浸す両校の声援のざわめきの中、和彦はエースナンバーを背負った松本を見つめた。
そして、プレーボール。
松本は大きくモーションを取り、体重を込めて投げた。
「ストライク」
球審の声が飛ぶ。
松本は1回の表を3人で押さえ、港高校の攻撃となった。
「風が出てきたな」
和彦はネクストバッターズサークルへ向かいながらそう思った。 「ダイヤモンドダスト」 最終話
予報通りに振り出した雨は、見る見るうちにグラウンドを大きな水溜りに変えた。
中断。
駆け足でベンチに戻り、雨にぬれたアンダーシャツを着替え、体を冷やさぬよう肩からかけたタオルをかぶった和彦は、
ふと壁に幾つも掛けられている千羽鶴を見つめた。
自分達と戦い敗れていった相手校が、港高校の健闘、そして自分達の分までという想いを込め、
涙をこらえながら手渡してくれた大きな鶴。
昨年、夢を果たせぬまま敗れ去っていった港高校ナインにはこの気持ちが痛いほどよく解っていた。
通り雨だったらしい。
雨はすぐに小降りになった。
グラウンド整備が始まり、再び試合が始められることになると、
松本は和彦の肩を何も言わずにポンと叩くと、小走りにマウンドに向かった。
和彦は追いかけるように走り出して、追いついた松本の背中を同じようにポンと叩き、
全速力でセカンドのポジションに向かっていった。 この人のAN日本でやってたしめの言葉の
〜〜〜の人も〜〜〜の人も
みたいな台詞って覚えてる人いたら教えてもらえませんか?
>>88
おはようの人も、おやすみの人も、いってらっしゃいの人も、お帰りの人も、……
こんな感じだったような。 おはようございますの人も
おやすみなさいの人も
いってらっしゃいの人も
来週まで元気で過ごしてちょうだい。
篠原美也子でした。
真夜中のSF小説 『奇妙な一日』 −1−
カップから立ち上るコーヒーの湯気で鼻の毛穴が開くような気がした。
どこか開放感に似たその感覚に一瞬目を閉じると、
柳沢公平はおもむろに黒い液体の一口飲んだ。
濃い、苦い、おまけに熱すぎる。
15年に何々とする結婚生活だが、朝のコーヒーをめぐっての戦いは、
新婚わずか七日目にして妻の富子に軍配が上がっていた。
寝込むのである。
拗ねて仮病を使うというのではない。
本当に熱が出て具合が悪くなるのである。
元来、猫舌でカフェインが得意でない柳沢であったが、
六日目についに根をあげた。
「飲む、飲みます」
こうして、新婚七日目から今日に至るまで、
朝のコーヒーは柳沢にとって一種の儀式になった。
コーヒー如きで寝込まれてはかなわない。
それ以外はいたって普通の妻である。
唯一の自慢がコーヒーなのだから目を瞑るべきだ。
「おはよう」
中二の一人息子、洋平が食卓についた。
「おはよう」
柳沢はもう一口コーヒーを啜った。
いつも通りの朝だった。
真夜中のSF小説 『奇妙な一日』 −2−
軽い食べ物が食卓に並び順調に朝食が進む中、今日が燃えるゴミの日であることを、
柳沢は妻に指摘されて始めて知った。
ゴミ出し当番を勤めているのは柳沢自身に他ならない。
最近になってそういう伝統が形作られたのである
妻が言うに、世間体を気にしてゴミ出しをやらせないという考え方はもう過去のものであるらしい。
その結果として、柳沢にはゴミ出しという重要な任務が課せられることとなったのだ。
情けない。
つい柳沢は愚痴をこぼしてはみるものの、あの儀式と同様、結局は従わざるを得なかった。
「ごちそうさま、行ってくる」
急ぐようにして食事を済ませた洋平は備えていた荷物類を手際よく持つと、足早に食卓から離脱した。
陸上部の朝というのはそれなりに早いようだ。
柳沢もそれに促されるようなかたちで、朝食を終えると家を出た。
「行ってらっしゃい」
今でも妻が玄関先まで出てきて見送ってくれる。
紛れもなくいつも通りの朝だった。 真夜中のSF小説 『奇妙な一日』 −3−
柳沢は少し早歩きで駅に向かった。
柳沢にとって、いつもと違う時間の電車に乗ることはとても嫌だった。
柳沢は駅に着くとホームを見回した。
喋ったことのない見覚えのある顔がいつもと同じくいた。
こうして電車を待っていると、必ず部下の前田が声をかけてくる。
「おはよう」
やっぱり声をかけてきた。
柳沢は「おはよう」いつもと同じく答えた。
二人は満員電車に、車掌に押されながら何とか入れた。
柳沢はいつもと同じ電車にのれたことにひとまず安心した。
だが、そのとき、柳沢は何かいつもと違う、いや、違っていることに気がついた。
何が違ったかしばらく解らず、二駅が過ぎたとき、ハッとした。
確か前田は自分の部下だ。
それなのに前田はホームで「おはようございます」ではなく、「おはよう」と言った。
まるで、友達や恋人にでも言うように。
柳沢は、ただの言い間違いだと思おうとした瞬間、隣にいた前田が耳元で言った。
「今日も綺麗だよ」 真夜中のSF小説 『奇妙な一日』 −4−
柳沢はこれをたちの悪い冗談だと思うことにした。
しかし、上司に下らぬ冗談を言う前田に注意をしなければ、柳沢の気が済まなかった。
勤める上村工業に着くと、柳沢はいつもの係長の席に着き、午前中は書類を片付けていた。
昼、柳沢は朝の注意をしようと前田を喫茶店に呼び出した。
「朝の冗談は何かね?」柳沢は少し声を荒げてみせた。
「会社ではいわないようにしていたけど、君の顔を見たらたまらなくなったんだ」
前田の目は紛れもなく恋人を見るものだった。
柳沢は恐ろしくなり会社へ逃げ帰った。
柳沢が席に着くと、上司の奥山部長が声をかけてきた。
「柳沢君」
柳沢の耳元に近づいて言葉を続けた。
「綺麗だね。愛しているよ」
柳沢は身動きが出来ずにいると、ひとりのOLが呼びにきた。
「柳沢係長、上村社長がお呼びです」
柳沢が社長室に入ると、後ろから抱きつくものがいた。
「公平ちゃん可愛い」
上村社長だった。 真夜中のSF小説 『奇妙な一日』 −5−
柳沢はとっさに社長から逃れ、社長室を飛び出した。
部下の前田といい、奥村部長といい、よりによって社長まで。
柳沢は何がなんだか解らず頭を抱えた。
仕事を終え、帰宅途中、柳沢は妙な視線を感じながら一つのアメリカンジョークを思い出した。
ある男が数人の美女と一緒で全員が全裸という夢を見て、困惑して医者に相談したところ、
医者は何が不都合なのか?と聞き返した。
すると、その男は言った。「私も女だということです」というものだ。
柳沢は家に着くと自分の姿を鏡で確認した。
そんなことがあってたまるか。
と思いつつも、柳沢は鏡の中のいつもの姿に内心ほっとした。
いつも通り、家族三人で食卓を囲んでいると、息子の洋平が言った。
「ねぇ、お母さん。僕とお父さん、どっちが綺麗」
「そうねぇ、洋平の方が可愛いし綺麗よ」と妻の富子が答えた。
柳沢は頬を硬直させ立ち上がって叫んだ。
「もっと綺麗になってみせるわ」 >>98
ベイFMの夜中の5分番組ですね。なつかしい
Shinonara Miyako文庫、話もさることながら、姉御の朗読の声が好きでした。
あの声が、すごく雰囲気をだしていた様にも思えます。
しかし、一体、この原稿はどうやって起こしているのでしょうか?以前に
篠原美也子文庫の全文掲載のHPがありましたが、閉鎖されてしまったようですね。
長文書き込みすみません。 真夜中の青春小説『この夜の向こう側(Pert2)』 −1−
マモルは自分が何をやりたいのかまだよく判らない。
もうすぐ18になろうとしている秋、受験勉強は追い込みに入っているが、
参考書を眺めるマモルの目は気がつくと何も書いていない余白のページに止まってしまう。
母親は言う、「とりあえず勉強でしょう?」
友達は言う、「とりあえず大学行かなきゃしょうがないだろう?」
とりあえず勉強して、とりあえず大学にいって、それからどうなるんだろう?
とりあえず就職して、とりあえず結婚して・・・。
一体、いつまでこの“とりあえず”は続くのだろう?
マモルは頭を振って参考書をバタンと閉じる。
真夜中ってのはどうも良くない。
友達と騒いでいる学校での時間や、母親の小言にイライラする夜は
こんなこと考えもしないのに。
周りはしんと静まり返っているのに、胸の中だけがザワザワしている。
もう今日じゃない、でも、まだ明日じゃない隙間の時間、
マモルは無性に誰かの声が聞きたいと思った。 真夜中の青春小説『この夜の向こう側(Pert2)』 −2−
ふと窓際に目をとめる。
どうせ築十年程度の一軒家が立ち並ぶ住宅街には星は瞬いてくれないだろうが、マモルは
暗闇の主を探すかのようにカーテンをめくり、ガラス戸を家族に気付かれないようにそっと開けた。
ひんやりと頬に秋の夜気が冷たい。
深夜27時。
普段ならその日のノルマをこなしている頃だが、ノートも参考書もさっき閉じたまま、
もう今は何も出来そうにない。
だからといって、明日ならできるのだろうか。
窓際に片肘をつき、マモルは柄でもないと思いながらも、溜息を思い煩いと一緒に吐き出した。
この先、俺はどうなっていくんだろう。
考えれば考えるほど答えは闇に溶け込む。
次第に眼が暗さに慣れてきた。
その両目が数件向こうの屋根の上を飛び移りながら走っている人影を捕らえたのと、
人影がこちらに気付いたのは、ほぼ同時だった。
状況を理解するどころか、頭の中が白紙状態のマモルの前へ、人影はトンと軽やかに舞い降りた。 真夜中の青春小説『この夜の向こう側(Pert2)』 −3−
「君かい、僕を呼んだのは」
舞い降りたその影は、動揺するマモルもお構いなしで喋り始めた。
「ああ、自己紹介が遅れた。僕は、一応、君たちの世界でいう天使って奴さ」
確かに頭上には輪が、背中からは大きな羽が生えている。
さらに、その自傷天使の話は勝手に進められる。
「うん、君は何か望みがあるみたいだ
うん、僕がそれを一つだけ叶えてあげる
さあ、言ってごらん」
全く一方的すぎる。
この状況の中で冷静に答えの返せる人間が一体何人いるだろう。
と、戸惑っていると、
「そうだね、少し急すぎたかな。
じゃあ、7日後の同じ時間また来るからその時までに考えておいてよ」
そのどうも突然すぎる天使は、空高く舞い上がったかと思うと、次の瞬間、暗闇の中へ姿を消した。
何だったんだろう、マモルの頭には疑問符がたくさん並んでいる。
今の出来事が夢であったかどうかは7日後にわかることだ。
しかし、夢であったとしても、僕自身の一番望むこととは何だろう。 >105
激しく感謝!懐かしさがこみ上げてくるよ。声若いな〜。 真夜中の青春小説『この夜の向こう側(Pert2)』 −4−
一番望むこと。
そう問われても思い浮かばなかった。
そこで、マモルは昔どんなことを願ってきたか紐解いていくことにした。
幼い頃は弟が欲しかった。
一人っ子の守るは、友達の兄弟喧嘩の話がひどく羨ましかった。
誕生日には自転車を願ったこともあった。
遠足の前に新しいナップザックを欲しがったり、子猫を拾い、親に叱られたこともあった。
初めて女の子を好きになったときには、なんだかよくわからないその感情の行き場を求めた。
祖父を亡くし、もう一度会いたいと思ったのもこの頃だった。
中学生になると、部活で全国大会に行きたがり、勉強の成績を気にした。
転校する友達との別れを悲しんだりもした。
高校受験では合格を願った。
無事高校生になると、クラス替えのゆくえを真剣に悩んだ。
バイクを買おうと、アルバイトに精を出したこともあった。
そして、今。今は何だろう。
さしあたって大学合格か。
そうだろうか。
何か違う気がした。
マモルはこんなことを真剣に考えている自分に半ば呆れつつ約束の日を待った。 真夜中の青春小説『この夜の向こう側(Pert2)』 −5−
7日目の闇が冷たい微風をマモルの頬に運んだ。
そして、闇の場所から月の瞬く場所へと足を踏み入れた天使は、
マモルに暖かい微笑みを浮かべつつ、ゆっくりと口を開く。
「うん、見違えるほどにいい顔だよ。さぁ、聞かせてくれるね」
天使の陽気な言葉を浴びたマモルは、険しい面持ちのまま、天使の大きな瞳を強く見つめた。
「いろいろと考えては見たけど、正直なところはよくわからない。
だけどね、少し何かが見えた気がする。
本当に望むことは、きっと望んだことを達成した後からついて来るんだと思うんだ。
そうだ。僕の本当の望みが叶ったときに、僕のうれしそうな顔を見に来てくれるかい」
結局は微笑んでしまったマモルを前に、陽気な天使は静かにうなずくと、
この夜の向こう側を越えていくマモルの姿を想像していた。
「マモル。きっと僕は成長した君を見つけられると思う。
だって、今の君は七日前の君よりいい顔をしているんだもの」
そして、夜は明けていく。
すべての明日のために。 この真夜中の青春小説『この夜の向こう側パート2』は、個人的に非常に気に入った
作品です。特に、第3週目回の話が非常に印象的です。生で聞いたのが丁度第3週目
回でした。 5話目投稿した人、上手だな(みんな上手だけど)
これって投稿が少ないときとか、美也子さんがコッソリ自分で書いたのを読んだりしてたのかなぁ? いや、そういうのもあったろうがさすがにADかDだろう… いつだったか、投稿数を言ったことがあったはず。
もう記憶がアバウトだが、3ケタいってたはず。 父乳とか言ってたのこの番組だっけ? トリビアの魔乳で思い出したんだけど... 言ってたかも。「特ホウ王国」あたりとごっちゃになってるかもしれんが。
「タマキンを自由に動かせる男」の話をしてたのを思い出した。 「ひとり」をリスナー達と歌って終わった最終回。あれは本当に泣いた。
確か両親が電話で出演した事ありませんでしたっけ?? 「逃げてやる」
引き出しの中をかき回しながら、みゆきはさっきから何十回目に当たるそのセリフをまた呟いた。
時計の針はもうすぐ11時半。
朝の早い両親はもう寝ているし、大学生の兄は深夜でなければ戻らない。
約束まであと30分。
ようやく探し当てたセーターをバックに押し込むと、壁につるした制服に向かい、みゆきはもう一度呟いた。
「逃げてやる」
その口調は決して投げやりではなく、みゆき自身も不思議と「逃げる」という14歳の少女にあまり似つかわしくない言葉から、
ネガティブなものを感じていなかった。
実際、「何から?」と聞かれたらうまくは答えられないだろう。
ただ、みゆきは今夜を特別な夜にしたかったのだ。
優しくて、曖昧で、居心地の良い学校や、家や、そして、14歳という年齢から、
とにかく「逃げてやる」なのだ。
しかも、駆け落ちという手段で。
みゆきが選んだ相手は古川さとし。
先週の席替えで隣同士になったのと、口が堅そうだと思った、それだけの理由だった。 ボーン ボーン・・・と12時を告げる振り子時計の音で、
みゆきはハッと我に返った。
もう二度とこの部屋に戻ってこないのではないのだけれど、
みゆきは、自分が多少なりともノスタルジックな気分になっていることを
否定できなかった。
まだ鳴り続けている振り子の音で、両親が目を覚ますのではないかと思いながら、
みゆきは荷物を担いで外へ出た。
11月の夜風がみゆきの肌に心地よい刺激を与えてくれた。
みゆきは頭がすっきりとして、完全に吹っ切れた。
私はこれから自分の見えない殻を駆け落ちという方法で打ち破るのだ。
古川さとしはあくまでパートナーであって、恋人じゃない。
みゆきがそんなことを考えながら家の門で待っていると、
闇夜の静寂を打ち破るように、ちりんちりん、という音がした。
さとしが、14歳の少年にしては珍しく買い物自転車で現れたのだった。
みゆきはこれが駆け落ちなのかなと考えてしまった。
しかし、さとしはそんなことは気にせず、「お待ちどう」と白い歯を見せた。 >>105
GJ!
ありがたく聞かせていただきました。 「とりあえずどうしようか?」
意外なことに、さとしは嬉しそうだった。
学校では渋々承知したのに、今のさとしは好奇心旺盛な、
まるで初めて遠足に行く小学生の様だった。
背中には大きなリュックサックを背負い、一杯に物を詰め込んでいる。
肩からぶら下げている懐中電灯がなんだか情けない。
失敗した・・・、みゆきは心の中でそう思った。
「とりあえず行こう。後ろ乗んなよ。」
さとしが笑顔で言った。
みゆきは言われるがままに、とりあえず乗った。
「さぁ、行くよ」
自転車が深く静かな住宅街を走る。
みゆきの頭の中で想像していたものより、はるかにかけ離れてはいるものの、
二人の駆け落ちは始まったのだ。
これからどうしよう・・・、みゆきの心の中には考えもつかなかった不安が走る。
「どこ行く?何ならゲーセン行こうか?」
失敗だ・・・、みゆきは確信した。
「学校へ行って。
駆け落ちなんだからもう二度と行かないでしょう。
最後に一度だけ見たいのよ」
心にもないことを、みゆきは言った。 中学の裏門が見えてきた。
裏門の前は国道で、深夜でも車の通りは激しかった。
門の前に不振な影が見えた。
前屈みになって立っている女性のようである。
近づくにつれてその人が妊婦さんであり、両手でおなかを押さえていることがわかった。
「どうしたんですか?」
自転車を止めて、さとしが駆け寄る。
「タクシーを止めたいんですけど・・・」
苦しそうに答える女性。
さとしはすぐさま自分が着ている上着をアスファルトの上に敷いて妊婦さんに座らせた。
「救急車、呼ばなきゃ」
みゆきが叫んだのとほぼ同時にさとしは車道に走り出していた。
例の懐中電灯を右手に高く掲げながら、車の方に向かってぐるぐるまわしている。
一瞬、唖然としたみゆきだったが、すぐにさとしの考えを理解した。
何でも良いから車を止めようというのだ。
何台かが素通りした後、「回送」と表示されたタクシーが静かに止まった。
状況を察した運転手が、さとしと共に女性に手を貸し後部座席に乗せる。
隣にみゆき、助手席にはさとしが乗り込む。 誰もが早く病院へ着いてほしいと願った。
みゆきは額に玉の汗を浮かべる女性のお腹にセーターを掛けた。
「この子を助けて・・・」
悲痛な声にさとしは爪を噛み、運転手はアクセルを踏んだ。
ようやく病院に着き、女性はただちに分娩室に運ばれる。
廊下の長椅子に3人が座っていると、母子手帳を手がかりに連絡された男性が駆けつけた。
男性は何度も頭を下げながら、妻が家出をしたこと、精神的に疲れていたことを語り、
「僕がいけなかったんです」と、涙をこぼした。
彼女たちもあいされているんだと感じて、みゆきはいたたまれなくなった。
「なんか似てるな」
さとしが耳元で囁き、その意味を理解したみゆきは小さく頷いた。
そして、細く長いリノリウムの床に産声が響いた瞬間、
みゆきはさとしの腕を握りしめ、運転手は父親の肩を叩いた。
ありふれた夜にも星は輝く。
ただ、それを知るのはいつも後悔のあとなんだ。
「始めよう」
みゆきは深く息をついてから、テレフォンカードを取り出した。
-FIN- テレフォンカード・・・なんて懐かしい響きなのでしょう。
小中学生も普通に携帯電話を持つ時代。
10年前だからこそ、このような物語に仕上がったのでしょう。 いつもお疲れさまです
ずーっと読ませていただいてます
そうですね、テレフォンカードなんて、死語の域に達しているかも・・・
携帯電話が日本的情緒のいくつかを奪ったのは確かでしょうね。 こないだ、恋愛小説を書いている作家が、携帯電話の登場によって、微妙なすれ違いを書けなくなったといった意味合いの事を言っていたな。 駅の改札口で女を1時間待ち続けた男が公衆電話へ・・・
その時やっとたどり着いた女は、男が帰ってしまったと思い、失望の帰途へ・・
何も知らない男はまた改札口で立ち続ける・・・
みたいな奴ですなw >129
改札口と言えば伝言板も使われなくなったなぁ。
冴羽遼に依頼したい場合はどうすりゃいいんだ。 伝言板ってまだあるのかね?
うちの方の最寄り駅では見なくなったような気も・・・(@都下) >131
最寄り駅は割と新し目の駅だけど、伝言板は無い。 レギュラーになる前に(直前くらいに)、1回 臨時というか、特番というかで
姉御がANで喋っていたけど聴いた人っているのかなぁ??
偶然聴いていて「え、篠原美也子だ!?」ってすごくびっくりしたんだけど。
>134
たしか、2部だったけど・・・・。
一生懸命、自己紹介をしていた。
こないだ行われたライブのゲストに橘いずみが来てたんだけど、
MCで篠原美也子文庫の話題が出た。ANNにゲストで来た際、1エピソードを担当した話だったんだけど、
>>93-97の中の1つだったっけ? >25 ですね。
主人公を、18歳から43歳にしてしまいました。
まだ3話目だからどうにでも収拾できるだろうと思って、
わざとやったような気がするなあ。
>137
そうだったんだ。登場人物を男から女に変えちゃったって話してたから、>>93-97かと思ったんだけど。 高速道路を埋め尽くした渋滞の列は全く動く気配がなかった。
事故かな、マコトはちらりと腕時計を見た。
5時を回り、辺りはもうほとんど暗くなっている。
12月31日、今年最後の日。
マコトは10年ぶりに故郷を目指していた。
日本海に面した小さな都市。
多分、もう雪をかぶっているはずの故郷。
間に合うかな、マコトは窓の外に目をやった。
吉村、杉山、長谷川、懐かしい顔が浮かんでくる。
奴等は来るだろうか。
4人は高校3年間を同じボクシング部で過ごした仲間だった。
卒業後、実力を見込まれたマコトは東京のジムへ、他の3人は地元で進学、就職と道は分かれたが、
進路が決まった18歳の大晦日、思い出の詰まった体育館のリングの上で、4人はある約束をしたのだ。
10年後の今日、午後11時55分、ここでもう一度会おう。
一人東京へ向かうマコトへの3人からのはなむけの言葉だったのかもしれない。
あれから10年。
「いまだに4回戦なんて、参るよな」
マコトは苦笑交じりに呟き、動かない車の列を見つめた。 久しぶりにキタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!! 一方その頃、家賃4万円の某アパートで長谷川は一人寂しくコンビニ弁当だった。
「奴ら、来るかな」
突然、電話が鳴り響く。
長谷川は3回ほど待ってから受話器を取るや否や、
「おい、どうしちまったよ」
と、独特の早口が聞こえてきた。
上司の上西工場長だ。
しかし、言われていることの意味がよく掴めない。
長谷川が、そう困惑したのも束の間、
「早く来い、ラインが止まってんだよ」
上西工場長が苛立たしく言った。
このときになって、長谷川はようやく意味を理解したが、一つだけ疑問に思う。
「あの、俺、今日休みで、明日の元旦から夜勤のはずですけど」
「今日が夜勤で、元旦休みだろ」
そんな気がしてきた。
「ぼけたこと言ってないでさっさと来い、10分は待つ」
「すいません、いますぐ行きます」
電話を切った頃には、長谷川も己の勘違いをすっかり認めていた。
「これは困った」
ナナハンをすっ飛ばして本社工場に向かう中、長谷川は仕事という大障壁の突破口を探した。 >142
ここの板はかなり長い間書き込みが無くても落ちないから、自分のペースでどうぞ。 「おい、寒いよ、帰ろうぜ」
杉山が言った。
「バカ、ここに集まるって約束しただろう」
吉村はそういうと、10年前と変わらないように見える体育館のドアを開けた。
杉山と吉村は同じ地元の大学に進学した。
杉山は卒業して出版関係の会社に就職したが、吉村は2年目に中退し、実家の酒屋を継いでいた。
「でもさ、こんなに早く来なくてもいいだろ」
猫背になって杉山がいうと吉村は電気をつけてこういった。
「トレーニングするんだよ、試合に備えてな」
その言葉で、"吉村はマコトと試合をするつもりだ"ということに、杉山が気付いたとき、
吉村は続けて当たり前のように言った。
「マコトは強かったけれど、俺との勝負は五分五分だったんだ。
俺だってトレーニングしてるからさ、情けない負け方はしないぜ。
杉山、応援してくれよ」
どうなっても知らない、といった表情の杉山はシャドウボクシングをする吉村を背中に体育館の外を見た。
真っ暗だったが、それも10年前と変わらないように見えた。 インターを抜けると見慣れた風景が広がりだす。
一面白い世界。
マコトは5時間の銃チアのあとに、10年ぶりの故郷に臨んだ。
しかし、パチッ、という音とともに視界が消えた。
「全く、あと少しだというのに」
ボンネットを空け、あれこれ調べてみる。
案の定、バッテリーがいかれていた。
見渡したところ、他に走る車は見当たらない。
目的地まであと10km。腕時計が11時の時報を知らせた。
マコトは何か決心するようにボンネットを強く閉じ、
「プロボクサーマコト、28、走ります」
照れもなく、そう言い放つと、マコトは雪の中を全力で走り始めた。
「工場長、怒っていたな」
青くなった右目の辺りを押さえながら、長谷川も雪道を急いでいた。
工場に着いた長谷川は、仲間との約束が頭から離れず、
結局、工場長のキツイ一発と引き換えに、何かと切り抜けてきたのだ。
「これであいつら来なかったら、俺はただのバカだな」 除夜の鐘が聞こえる。
10kmの道のりを軽くこなしたマコトは、白い屋根の懐かしい体育館に明かりを見た。
"奴等、来てるな"、マコトはにやっと笑い、残り100mの雪の絨毯を全力で走り抜けた。
だが、靴の雪を階段で拭い、ドアに手をかけたとき、中の様子がおかしいことに気付いた。
何か大声で言い争っている。
この聞き覚えのある声、確かに吉村と長谷川の声だ。
何となくドアを開けることにためらいを感じたマコトは、二人の怒鳴り声に耳を傾けた。
「バカ野郎、わざと負けて、マコトが喜ぶとでも思ってんのか」
「何言ってんだ。マコトに自信を持ってもらうためだろう。
あいつはいまだにベルトを掲げたことがないんだぜ。二人とも協力しろよ」
気がつくと、マコトはだだっ広い何も無い校庭で、上を向いて立っていた。
嬉しさ、思い出、自分の無力さに対する怒りと悲しみ、いろんなものが滴となってマコトの頬を流れていく。
マコトの心に降り積もった雪。
みんなが雪解けを待っている。
さぁ、走ろう、春に向かって。 吾輩はカメレオンである。
名前は特に無い。
生まれは遠くの暑い国だが、1年前、ここ四ツ越デパート8回のペット売り場へやってきた。
雨も降らず、シャッターが開かなければ、太陽も見えないガラス箱の中の暮らしは、
決して大満足とは言い難いが、たった一つ、生まれ故郷では滅多にお目にかかれないものが
ここにはわんさと溢れており、吾輩の無聊を慰めてくれる。
それは人間である。
吾輩の住むガラス箱の片側は売り場に面しており、店員および亀やら蜥蜴やら吾輩やらを
眺める買い物客を見ることができる。
そして、もう片側はもう一枚のガラスの壁越しに屋上広場が見渡せる。
夏はビアガーデンとやらで賑わい、真冬の今はさすがに人もまばらだが、
それでも少し暖かい午後にはサラリーマンやOLや家族連れの休憩所となる。
毎日様々な人間達が、吾輩の目の前で思わぬ姿を落としていく。
午前10時。
今日もそろそろ開店の時刻である。 開店のアナウンスと共にこのペット売場に飛び込んできたのは、一組の老夫婦だった。
「おじいさん、この茶色のがいいじゃないかねぇ。毛が長くて可愛らしいじゃないか」
どうやら犬を買いに来たらしい。
ふと、老爺と目が合った。
「はて、この緑色のは何だろう」
吾輩を知らないらしい。
吾輩はシンボルマークでも吾輩自慢の舌を出して見せた。
「なんという素晴らしい舌だ。螺旋状に伸びている」
感動してくれたようだ。
「何でこんなに舌が長いんじゃろうなぁ、なぁ、婆さんや」
しかし、老婆は犬に夢中で老爺を無視している。
吾輩は開店前に店員が入れてくれた朝御飯を舌で取って食べた。
ここでは昆虫の死骸だが、生まれ故郷では元気に飛んでいるおいしそうな昆虫を
特大の目をめいっぱい動かして見つけては、この長く螺旋状の舌で捕食していたのである。
この吾輩の達者な舌の動きに老爺は感心してくれたらしい。
老爺は相変わらずガラス越しで犬に愛嬌を振りまいている。 しばらくすると、吾輩を見つめていたその老爺はくるりときびすを返し、
犬を見ている老婆へ近づいていった。
吾輩はその後姿を見つめていたが、何やら吾輩にはわからない話を始めてしまったので、
すぐにそれにも飽きてしまった。
吾輩は何気なく後ろを振り返った。
今日もいい天気だ。
こんなとき人間ならどんな気持ちになるのだろうか。
残念ながら、吾輩のように狭い世界にいるものには広い世界にいる人間の気持ちはわからない。
そのとき、吾輩は妙なことに気付いた。
この時期、滅多に人が来ることのないあの屋上に一人の女性が立っているではないか。
それに、吾輩の記憶ではあのフェンスとかいう鉄の咲くより外に立っている人間を見たことがない。
「おじいさん」
突然、さっきの老婆が声を上げた。
振り返ると、慌てた顔で屋上を指差している。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています