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ある時、朝から土砂降りで今日は撮影無し、と旅館に通達があった。
馬の調教もしていたエキストラ?(一応クレジットされている)の人と
仲良くなっていたんで、いろんな話を聞こうと出向いたら衣装部屋
みたいな開けっ放しの広い所に数人固まって何かしている
その輪の中に仲良くなった人もいたので入っていったら
みなロウみたいな物を使って服を汚していた、その集団の中に監督もいた。
で、その人に何で監督がいるのか話を聞いてみると朝早くから
監督が一人でしていたらしい。
その人が私がやりますと言うと、
「イヤいいんだ!こうやっていると色んな事考えられるから、
楽しみを取らないでくれ」と言われたらしい。
しかし監督が一人黙々としているので他所にはいけず
手伝いますと言って
山積みになっている充分古着感は出ている衣装を手に取り、汚しにかかると
監督が「この人は物売りだから右肩の所がすれているんだ、
だからそこを破れないくらい汚してね」と言われたらしい。
「え!役名がある衣装なんですか?」と聞き返したら
「そう考えると汚しも楽しいだろ!」
「僕はね、常にそういう風に考えるんだよ」
「理にかなった汚しはウソっぽく見えないからね」
と応えられ、また黙々と襟首にロウで汚しを再開された。
私はそんな話を聞きながら石で裾の所を恐る恐るこすっていたりしながら聞いていました。
ふと顔を上げるといつの間にかその広間いっぱに人があふれみんなゴシゴシしていた。
監督は笑いながら「だから僕の楽しみを取らないでくれ」と言っていたのが印象的だった。
それから余程気分がよかったのかまたは本当に休みだったのか、
お昼を挟んで夕方までいろんな話をしてくれた。

しかし私があのとき汚した衣装は何度映画を見ても確認できない。