三百人劇場で開催されている、田坂具隆監督作品の感想を。

『どぶろくの辰』
新国劇の戯曲を、舞台と同じく辰巳柳太郎主演で映画化。田坂監督の
闘病からの復帰一作目なので、やや本調子には及ばず、といったところ。
でも、まだ精悍な面影がある辰巳が見られるのは貴重かな。本作での
イメージは、そのまま、『わが町』での、“たあやん”に繋がりますね。
入江たか子が、艶っぽい酌婦役で、後年の化け猫映画はともかく、
こんな役は珍しい。あと、本作を観てわかったんだけど、稲垣浩監督・
三船敏郎主演のリメイク作は、人物設定が同じなだけで、ストーリーは
全く違うんだね。ラストは、リメイク作のほうが好みかな。

『女中ッ子』
田舎から上京してきて、上流家庭に住み込みで働く女中(左幸子)と、
わがままな次男坊(伊庭輝夫)の心の交流を描いています。実際に
地方出身で、女優になる前は体育教師だったという左は、まさにハマリ役。
次男坊役の伊庭は、『雪割草』に続いての出演。轟夕起子が、優しさと
厳しさを兼ね備えた奥さん役で、絶品。あと、意地悪な長男役は、後に、
歌手としてデビューする田辺靖雄ですね。随所に挟まれる、伊福部昭の
叙情的な音楽もいい。ただ、内容的には、木下忠司あたりのほうが合って
いる気がするんだけど。心うつ秀作。