阿羅漢はものの分別や価値判断をしない空と観ると関係あるかもしれない話

法句
409 この世において、長かろうと短かろうと、微細であろうとも粗大であろうとも、浄かろうとも不浄であろうとも、すべて与えられていない物を取らない人、──かれをわれは<バラモン>と呼ぶ。


因縁譚

舎衛城(Sāvatthī)にあるバラモンが住んでいました。その人は仕事を終えて家に帰ると、上衣(上半身にかける布)を脱いで外に置いたまま家の中に入る習慣があったのです。家の中で体臭が移らないように気をつけていたようです。

ある一人の阿羅漢が、食事を終えて精舎に戻る途中、その上衣を見つけたのです。持ち主はいないのかと周りを見たところ、誰もいませんでした。そこで、「これは捨てられた布だろう」と思った阿羅漢は、衣の生地に使うために糞掃衣としてそれを拾ったのです。

そのときバラモンが、自分の上衣を比丘が持っていこうとしているのを見つけたのです。激怒した彼は、「禿頭め、なぜ私の上衣を盗ったのか?」と怒鳴りました。阿羅漢は「これはあなたのものですか。私は持ち主がいない、捨てられたものであると思ったので、糞掃衣として拾ったのです」と言って、上衣を返したのです。

阿羅漢はそのいきさつを精舎の比丘たちに話しました。比丘たちは阿羅漢をからかおうとして、「その布は長いものでしたか? 短いものでしたか? 上質でしたか? 普通でしたか? 高価なものでしたか? 安物でしたか?」と、聞きただしたのです。
阿羅漢は、「布の長短、品質の善し悪し、高価か安価か、などを全く気にしませんでした。ただ、糞掃衣という気持ちで拾っただけです」と答えたのです。

この答えに対して、比丘たちは疑問をいだいたのです。ものごとに対して区別判断しないというのは、覚りに達した聖者たちの精神です。
「この比丘は覚っていると吹聴したい気持ちでいるのかもしれない」と思って、お釈迦さまにその旨を報告したのです。
お釈迦さまは「その比丘は阿羅漢なので、ものの区別判断をしないのです。ものの価値判断をしないだけではなく、他人のもの、与えられてないものを取ることは一切ありません」と仰いました。