0008手ぶらの乞食
2019/11/12(火) 08:54:02.69ID:OgzWuaA5あれは、いつの頃だろうか?
そう、小学校1〜2年生の頃だ。
父は大の巨人ファンでね。
小さかった私もご多分に漏れず巨人帽を被り、侍ジャイアンツや巨人の星といったアニメが大好きだった。
その日も巨人帽を斜めに被り、弟相手に得意気になってキャッチボールをしていた。
そこへ父がやって来て弟のグローブを手に取り「思いっきり来い!」と言いながらポンとグローブを叩き、キャッチャーのポーズを構えた。
私の心臓は高鳴った。
普段から父に怒鳴られっぱなしの私は緊張した面持ちで、父のグローブ目掛けて力一杯投げた。
しかし力投虚しく球は明後日の方向へ。
父は私のへっぴり腰に激怒した。
「家にすっこんでろ!」
私はひとり勉強部屋で泣いた。
外から父とキャッチボールをする弟の無邪気な笑い声が聞こえる。
間もなくして巨人軍の長嶋茂雄が引退した。
「我が巨人軍は永久に不滅です!」
今にして思えば父の説明の付かない怒りが何処から来ていたのか痛い程、分かる。
彼もまた父に虐げられて育ったのだ。
今、父はすっかり丸くなって、まるで子供みたいだ。
今朝方、穏やかな秋風に訊いてみた。
「父さん、あの巨人帽何処へ行ったんでしょうね?」
父は明後日の方を向いているに違いない。
穏やかな微笑みを浮かべて。
きっとどこ吹く風に飛ばされていったのでしょう
明後日の方向へ。
完