蛆虫の説
未発表、笑和会第20回月並笑冠沓句、昭和8(1933)年10月16日
蛆虫は最も不潔なる処を好み糞壷塵溜溝泥の中又腐つたものに喜んでタカル事は諸君も御存
じなるべし然るに万物の霊長たる人間にして此蛆虫に劣るほどの代物があるに至つては
吾等君子人は正に長大歎息せざらんと欲しても豈得べからざらんやである而して一名ゲヂ
ゲヂ野郎とも言ひ下等の部はやたらにオベツカを使ひ上等の部はオベツカを使はるるを好む
なり又神様と鼻つ紙との区別もつかず感情に走る事女郎の腐つた如く景気のいゝ方へのみ
集りたまたま誠の者が誤解されたる時は恩や義理人情など屁とも思はず忽ち小便をひつか
け後足で砂をかける事犬猫其ままなり日輪様を恐るる事オケラの如くモグラモチの如し大浄
化が始まるや此奴等は真先にフンノビルか又は赤々たる太陽の光に眼眩む事請合なり大慈
大悲の大神はこれ等岨虫を一つ処に集め灰になしセメテ霊魂だけなりと救はんとなし賜ふ
其大御心の程畏き極みなるなり穴覧*ちやんちやらをかしいや糞でも喰へわからずやの
アポチンタンのへナチヨコ野郎のスカンピンのオツチヨコチヨイの気障で芋の煮えたのも御存
じないヤクザなアンニヤモンニヤ五里霧中のフヌケ野郎のマヌケ面の何をさしてもノロマで蜂
の頭同然なグウタラベーの奴狸の蛙の面へ水かけたやうな図々しいしやあやあ野郎の屁の
やうな事にブルブルガタガタしやがるワレヨシ一点張りのコエビシヤクのやうに手の附けられ
ないくせしやがつて此三千世界の大救世主下津岩根の大ミロク様の大神の化身でも何でも
御座らぬ此俺様に向つてゴテくと善だとか悪だとか姑婆のやうに小うるさくホザクに至つては
最早勘忍袋の緒が切れるかもしれねえぞ依つてモリブデンはおろか味噌オデン一本だつて
喰はさねえからさう思へ金の棒どころかシンバリ棒でどやしっけるかもしれねえから今の内か
ら覚悟をしろ今にコツチの方で金がウナル時分にはソツチの方では口惜しくてウナルだらう
お前達はいゝ気になつて浮かれてゐるが実は俺様の掌の上に乗つてゐるのを知るめえ今に
俺様がチヨイと掌の平をかへすと急転直下奈落へ落つこちドンな大怪我をするかもしれねえ
から一刻も早く目を醒して耳の穴をカツポジつて来なさい庭の草ムシリ位か塵溜の蛆虫とり
位には使つてやるから