ラテン十字架(パッションクロスとも言う)が今ではキリスト教の主要なシンボルとなっているが、6世紀まではキリスト教美術には現れていなかった。
キリスト教の時代より遥か昔においては、この十字架は、ヨーロッパや西アジアにおいては、異教のシンボルであった。
初期キリスト教徒たちは、それが異教のものであったために、排斥さえした。
3世紀のキリスト教会の神父であったミヌキウス・フェリクスは、キリスト教徒たちがラテン十字架を崇拝することに憤慨して、次のように言った。
「お前たち、それでは異教徒ではないか。木の十字架を崇拝するなんて、それはまさに異教徒のすることだ……
お前たちの記章や旗や標識と言えばただぴかぴかの美しい十字架だけではないか。そしてお前たちの勝利の記念品はただの十字架だけではなく、その上に人間を乗せている」