中野区のケースワーカー 生活保護利用者 訪ねなくても「訪問」 「みなし運用」疑問の声


 中野区は生活保護のケースワーカーが利用者の生活実態を知るために家庭訪問して不在だった時、その後に連絡が取れた場合などは「訪問した」とみなす運用をしている。国はケースワーカーに各世帯への年二回以上の訪問を求めている。区の対応では適切支援ができず、不正利用を見落とす場合もあるとして、識者や当事者らから「実効性がない」と問題視する声が上がっている。

 生活保護法の実施要領などでは利用世帯の生活状況を把握し、援助方針や指導に反映させるためケースワーカーに一世帯あたり年二回以上の訪問を求めている。
 家庭訪問は世帯収入が利用要件を満たしているかを確認したり、生活指導をしたりするために実施。区は訪問時に不在だった場合、不在連絡票を残し、利用者から役所への来所や電話連絡があり、通帳を見せてもらうなどして、用が足りれば訪問したとみなしているという。
 区担当者はこうした運用を十年以上も続けていると認めている。区のケースワーカー一人あたりの担当世帯は九十四世帯(国標準は八十世帯)。担当者は家庭訪問に関し「国の通知には『家庭内で面接すること』とは書かれていない。会えない人もおり、訪問を繰り返すのは非効率」と話す。
 実際、区内で生活保護を受けている男性(62)は「ケースワーカーの訪問を数年に一度しか受けていない」と明かす。扶助費を何に使ったかを示す領収書などを提出するため月二、三回は区役所へ行くが「ケースワーカーは自宅に来ない。連絡はいつも私からで放置されているみたい」と話す。
 区は二〇一九年度、一万六千件の訪問計画を立てたが、うち四千五百件はみなし運用だった。問題はないのか。台東区の担当者は「不在でも別の日に改めて自宅へ行く」とし、自宅で本人と面談して初めて訪問ととらえているという。板橋区や新宿区も同様の対応だ。
 厚生労働省の担当者は家庭訪問について「訪問先で本人と面談することをイメージしている」と説明。中野区の運用の是非は「回答を控える」とした上で「不在連絡票に返答があり、そこで生活していることが分かっても、生活実態を把握するには不十分」と話す。
 ケースワーカーの経験もある立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)は「実際に利用者宅に行かなければ、分からない生活状況がある」と指摘。中野区の対応を「支援としても調査としても実効性のあるものではない」と疑問視する。