数学辞典 第4版 205 数論幾何学 K. 代数的基本群 より
(数学辞典で、遠アーベル(遠Abel)という言葉が出てくるのはこの箇所だけ)

Grothendieck は,遠アーベル多様体(anabelianvariety)と呼ばれる
代数多様体のあるクラスが存在し,(有理数体の有限生成拡大体上の)
遠アーベル多様体の幾何は,付随する数論的基本群によって
完全に決定されると考えた.
これをしばしば遠Abel 幾何(anabelian geometry)の基本予想,
あるいはGrothendieck 予想と呼ぶ.

遠Abel曲線は双曲的曲線と同値な概念と考えられ,
実際次の結果が知られている(望月新一):
k を(ある素数p に対して)p 進体Qp の有限生成拡大体に埋め込める体とする.
(例えば,k が有理数体の有限生成拡大体ならばよい.)
k 上の双曲的曲線Xと非特異代数多様体S に対し,
k 上の定値でない射S→X の集合Hom non−const k (S,X) から
k の絶対ガロア群Gk 上の連続開準同型π1(S)→π1(X) の集合
Hom open Gk (π1(S),π1(X)) をπ1(X¯k) の共役作用を法として
考えたものへの自然な写像は全単射である.
この結果の証明にはp 進ホッジ理論が用いられる.

なお,k,L を有限次代数体とするとき,自然な写像
Isom(k,L)→Isom(GL,Gk)/Inn(Gk) は全単射である
(Neukirch‐内田‐池田‐岩澤の定理).
(Inn は内部自己同型群を表す.)
これも広い意味での遠Abel幾何の1 つと考えられ,
さらに,F. Pop,望月らによる高次元化もある.