>>277 関連
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sugaku/42/2/_contents/-char/ja/ 数学 . 42
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku1947/42/2/42_2_97/_pdf 渡辺信三 確率解析とその応用 1990
(抜粋)
1.Wiener空間と確率解析
確率解析の中心はなんといつても伊藤清先生による確率微分方程式の理論であろう. N. Wienerは1923年にBrown運動を数学的にモデル化してWiener空間を確立したが,伊藤の理論はこのWienerの理論を出発点として展開され,それは確率過程の見本関数に関する微積分学ということができる.
微分学ではまず関数を局所的に直線で近似し接線を考えるが,ランダムな関数では平均値のまわりのゆらぎは無限小ではGauss確率変数であり,したがってその接線的役割を果たすのがWiener過程である.

2.Malliavin解析
上でも見たように無限次元空間の積分論は確率過程論と結びついて発展してきた.ところで無限次元空間での微分学は古典的には, Euler, Lagrange, Hamilton-Jacobi等の変分学であった.
変分学で取りあつかう汎関数は通常滑らかな関数の上で定義されており,Wiener汎関数に関連していえば,その骨格となるべきH上の関数が変分学の対象となる.そしてこのH上の関数の変分学とWiener汎関数積分とはパラメーター・に関する極限状態においてつながってくる.これは大きな偏差(1arge deviation)の理論における基本原理である.

約10年程前P. Malliavin は微分(=変分)の意味をWiener測度に関連させて修正した意味で考えれば,この種のWiener汎関数は十分微分可能であり,多くの場合C..級であるという事実を見出した.それは確率微分方程式の研究に新しい方法を提供するもので,それによってWiener汎関数積分の種々の問題における応用の可能性は飛躍的に増大した.

Malliavinはこの微分の概念をWiener空間上のOrnstein-Uhlenbeck過程に関する確率解析を用いて定義したが,その後重川,楠岡一Stroock,杉田,等の研究で丁度有限次元の場合のSobolevの意味の弱微分(weak derivative),あるいはSchwartzの超関数微分に対応する概念と同等であることがわかつてきた.
またMalliavin解析の基礎はWiener空間上の部分積分にあるが,一方Schwartzによる超関数の概念は部分積分による関数概念の拡張であった。このようにMalliavinの解析をWiener空間上の超関数論とみるのは自然であり,以下ではこの立場より理論の構成を試みる.