>>620
あとがき
「この本では基底を見せてテンソルを解説することを選択しましたが,数学とも物理ともつかない代物になってしまいました.これはテンソルの理解のためにしたことで,自転車に乗れない人が補助輪付き自転車で練習するようなものだと好意的に解釈していただければ幸いです.
物理のように基底を見せないテンソルは使い勝手がよくすばらしいものです.物理学の,本質を見抜く力に驚かされます.」

249ページ
ここまでテンソルの計算(和,スカラー倍,テンソル積,縮約)が基底の取替えと可換であることが示されました.
つまりテンソルの計算は,基底によらず定まるものなのです.
物理法則の記述にテンソル方程式を用いるのは,テンソルにこの性質があるからです.
相対性理論の主張の一つは,「観測者によらず,物理法則は同じ式で表される」ということでした.
異なる観測者は異なる基底を持っています.
テンソルの元とテンソルの計算は,基底の取り方によらず同じ結果になります.
テンソル方程式による記述は,基底によらない(つまり,観測者によらない)ので物理法則を表現するのにうってつけの表現なのです.

252ページ
定義3.28 テンソル(物理流)