つづき

要するに

数学を専門としない学生にとっても数学
は基礎的言語であるので,むずかしいとい
って放棄することはできない.何のために
数学をやるのかという問いに対して,ごく
少数が頭のトレーニングと答えたほか,ほ
とんどすべての学生は専門で必要であるか
らと答えている.そのようなとき,数学精
神の育成という観点からだけでの教育は不
十分である.実際に使える数学も教えなけ
ればならない.コンピュータの発達は抽象
また,幅広い応用数学者のグループである
C& A(Computation and Analysis)は,数
学科出身以外の研究者もとり込んで着実な
活動を行なっている.しかし,日本的な体
質はそう簡単に抜けきれるものではないと
いうことも事実である.

数学の必要性を要請し,同時にわかりやす
く学ぶ方法を提供した.筆者の知りえた範
囲で,実際に数式処理を用いた教育や,視
覚化を利用した教育に対する学生の反応は
非常によいとのことである.
最近の学生は無気力であるとか無感動で
あるとかいわれる.しかし,アンケートの
結果によればそういう傾向はほとんどみら
れない.青春期は新しいものに対して好奇
心をもつ世代である,という事実は変わら
ない.数学に対する動機づけは,その好奇
心を刺激することによって可能であると筆
者は考える.限られた時間内に豊富になっ
た数学の全貌を示すことはそう容易ではな
い.しかし,補助的手段も使いやすくなっ
たという状況のもとで,大切なところは“要
するに”,そして視覚化も利用して“ たと
えば”,さらに“ なぜこんなことを”という
ことを説明しながら教育を行なえば,もっ
と学生をひきつけるものとなるのではない
だろうか.

研究をすすめながらすぐれた教育を行な
うことは,たしかに困難なことである.先
にふれたように,大学における教育環境も
決して充実しているとはいえない.しかし,
冒頭にのべたような学生の反応が存在する
中で,数学を専門としない学生に対する数
学教育をもっと真剣に考えることが今必要
なのではないであろうか.

(引用終り)