「あぶな坂」後編

運転手の自宅に着いた後、暫くして運転手が自宅から写真らしきものを持ってきた。
「これですよ、これ!」と見せてもらうと、テルコと一緒の写真だった...

車の中で「その人、奥さんですか…?!」「いや…」
 … そうだ! ビクビクする必要はない…

「ところで運転手さん、最近、那智大滝の滝壺の近くで白骨体が発見された
そうですね」「ええ、ひと月ほど前にね、身元不明らしいですね。近頃は、化学が
発達して骨格や骨相からある程度復顔出来るらしいですよ」 … 復顔!? …

「我々の商売や旅館などは、復顔写真が回って来ますよ。こんな顔を見たこと
ないかってね」… な、何だと、そんな馬鹿な! … 「ちょっと、止めてくれ!
トイレだ!」… あの男は覚えている。テルコの写真を持っているんだ! …

用を足すふりをして車の外に出た俺は、咄嗟に外で拾った大きな石を持ち、
タクシーに戻ると運転手をそれで殴りつけた! 運転手はハンドルの倒れ、
… 警報音が鳴り響く … その音に慌てて逃げ出すが、近くを通った
   パトカーに「どうしました?! 止まりなさい!!!」

捕まった俺は警察署で「テルコ殺しがバレるのを恐れて運転手を殴りつけた
というわけか、それで、那智の滝のどこに埋めたんだ! お前は先月、発見
された白骨体が、テルコだと勝手に勘違いしたが、あれは男のホトケだ。

どうやら藪を突いて蛇を出したようだな、そして運転手は、今、息を
引き取ったそうだ。お前は二人殺したことになる。お前もドジなことしたな」
「刑事さん、家に電話させてください!」俺は受話器を取り家に電話をする。

「はい、橘でございます…」「私だ…」「あら、あなた、二日も無断で家を
空けて、どういうつもりなの。今、何処にいるのよ!」「今、急用が出来て、
和歌山にいる。ところで、まみはいるか? いたら電話に出してくれ!」

「まみ、パパからよ〜 早くしなさい!」「もう、めんどくちゃいなぁ〜
もちもち…」「まみ、まみ聞こえるか…?! ...パパだよ」
「うん! パパいちゅ、かえってくるの? ...パパ、きこえてるの?!」

「...パパはね、...遠い所へ行くんだ! すっと遠い外国に...
暫くは帰ってこれないんだ! ママの言うことを聞いて、いい子にしている
んだよ。いいね!」「うん! おみあげかってきてね! じゃあね、パパ…」

… 受話器を持ったまま、遠くに聞こえる幼い娘の元気な声 ………
    ―「ママー!、 パパ、げんきだって!」―――