「御機嫌如何」

仕事帰りに同僚と繁華街の居酒屋で飲んでいた。ここの居酒屋にはTVがあり、
同僚と一緒にテレビ画面を見ていた。「鶴太郎変わったな、テレビに出て来た頃は
チャラチャラしていかにも芸人と言う感じだったけど…」「ああ、芸人と言うより、

何かを悟ったというか、達観した仙人のような風貌になったな、」「確かに、芸人
と言う風貌じゃない。いい年の取り方をしている。女はどう見ているか、わからん
けど、男から見るといい年の取り方をしているんじゃないか」「言われてみれば、

男としての面構えが良くなった。芸人の仕事は減って、逆に俳優としての仕事の
方が多くなってるんじゃないか…」そんな他愛のない話や仕事関係の話をして
3時間くらい飲んでいた......... 

そろそろ同僚が終電が近いと言うので、居酒屋を出た俺たちは、
店の前で別れることにした。夜の人気のない路地を千鳥足で歩いて
自宅があるマンションを目指した.........

自宅の玄関に入り靴を脱ぎつつネクタイを緩める… 左手には郵便ポストから
持ってきた一通の封筒。純白のそれに記されているのは、もちろん俺の
住所と名前。裏にはつい最近別れたあいつの名前があった!

乱雑に靴を脱いだまま、靴を揃えることもなくリビングに向かう…
ドサリと勢いをつけてソファら腰を下ろすとスプリングが軋む!
「ふぅ…………」 … 両手を広げて天井を見上げる …

そして目を閉じ、しばしの沈黙... 今日のことを整理する。
それを終えると、ゆっくりと目を開け周囲を見渡した。何の変哲もない自分の室内。
そして目は封筒へと向ける。手紙を持った左手を持ち上げ目の前に...

室内の明かりに透かして見てみる。中には便箋。当たり前だ!
これはあいつからの手紙なのだから...

本来なら封を切って開けて読むべきなのだろうが... 俺はそれをためらっていた。
何が書かれてあるのか、ちょっと知るのが怖い。あいつとは酷い別れ方を
したのだから… あいつには悪いことをしたと思っている。すべては俺が悪いのだ。

それでも、今、このタイミングで読まないと、きっとこの封筒は机の奥深くへと
追いやられてしまうだろう... 俺のあいつへの思いと同じように・・・

俺は封筒の端に指を掛けると、一気に " ビリリッ! " と破いた!
「拝啓 ○○様。 御機嫌如何ですか、私は相変わらずです。・・・」

封筒と同じく真っ白な便箋。そこに、ブルーブラックのインクで
               綴られている文字は紛れもなくあいつの筆跡だった。