「噤(つぐみ)」

亡くなった親父はよく俺を飯に連れて行ってくれた。
普段から無口な親父は食うのが早くて、自分が食い終わると、
怒ったような顔で俺が食べるのをジッと見ていた…………

(早く食え!)って言われているみたいでちょっと嫌だった。

こないだ初めて子供とラーメン屋に行ったら、息子は相当美味しかったらしく
ガツガツ食うわ、焦って水を飲むし、ちっこい手でどんぶり掴んでスープを

飲んでハァハァ言ってる… それを見てるだけで可愛かった。そしたら息子が
ちょっと嫌そうな素振りで「ねぇ、なんでじっとみてるん? おこってる?」

(あ… そっか、親父も今の俺と同じ心境でただ見ていただけなんだなぁー)

亡くなった親父は建築会社を経営していた。ある日、親父の会社にしては、非常に幸運と
言える大きな仕事が入って来た。親父は色んな所から出来るだけ金をかき集めて借金も
してその仕事に取り込んだら... なんと、騙されていた。ビルを建てたら、親の建築
会社がドロン。施主さんは建築会社に金を払ったって言う。親父は1年後自殺した...

俺も親父とは状況は違うが、事業失敗で窮地に立たされていた...
10年前に開業、去年3500万円の負債を抱えて破綻。

事業資金は親しい知人から借りている為、自己破産はせず、話し合いで6年分割で
返済する運びとなった。もちろん、それまで住んでいた分譲マンションや車などの
金目の物はすべて売却した。今は安賃貸アパートで細々と暮らしている。

経営破綻後、過去に従事していた仕事の関連でそこそこ稼げている。
案件が見つかったので何とかその収益で借金返済している。
生活費は何とか妻が頑張って稼いでくれている...

夜もまだ明けない 冷たく蒼い空を眺めながら 「暗い夜は明ける」
きっと乗り越えられると信じている…………

起業して10年。この程度で済んだのは常に廃業方法を考えてきたおかげだと思っている。
むしろ失敗を恐れるな! 失敗した時のことを考えるな! みたいなタイプの方が、
落ちるとこまで落ちるから危ないと思う。経営を維持するためにかなりの額まで

借金していくことが出来るからね。だから見た目は良くても多額の負債を抱えている
ことろも結構多い。そういうところは大体、かなりの借金を背負って潰れることになる。

経営者はその借金を個人保証しているので、自己破産までいくか、借金を背負うかの、
どちらかになる。この経験は、『俺の人生の一つの分岐点になったと思っている』

懲りずにまた新しい事業を計画する者もいるだろう。この経験を活かし、今度は、
二の足を踏まないようしっかりと計画を立てるの者もいるだろう。俺の周りにも
ゼロから再挑戦する者、どこかの資金を入れて子会社になるとか、解散させて

フリーランスになるとか、この経験を活かしてコンサルになるとか、
それこそ色々と道はある…………  【陽はまた昇る】

 夜もまだ明けない 冷たく蒼い空を眺めながら...