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50年前の食品汚染公害事件だが、長崎市の新聞社がそれを今、伝える意味を考える。
この証言をした被害者が家族の「被害」をようやく認識できたのが7・8年後のこと。
そしてその「被害」は50年経っても、いまだに救済されていないという過酷な現実。

>毒入り油で手料理 母悔恨「知らなかった」「ごめんね許して」 家族全員発症 カネミ油症50年の証言
>6/24(日) 14:16最終更新 長崎新聞
>【写真】「家族に毒の入った油を食べさせてしまった」。正江さんは声を絞り出した。50年たった今も、後悔は続いている=五島市内

>「安か油」を購入したのが全ての始まりだった。
>1968年春。当時29歳の松本正江(79)=仮名=は、長崎県五島市内の小集落に、漁師の夫と3人息子の家族5人で暮らしていた。
>巻き網船に乗る夫は海に出ている期間が長く、正江は子育ての傍ら、1人で畑を耕し、野菜を育てた。近くに住む義父母の食事作りも役目だった。
>そのころ商店を営む親戚から格安で食用油を購入した。「一升瓶10本が入る木箱を3ケース。1本当たり30円安かった」。
>裕福とは言えない生活。 油 は 日 本 酒 や 焼 酎 の 空 き 瓶 に 移 し 替 え ら れ て い て 、
> ど ん な 会 社 の 油 か 分 か ら な か っ た が 、 安価なのは助かった。
>「あんたのとこ安か油のあっとね。分けてくれんかな」。すぐにうわさが広まった。正江は親戚や近所の人に油を配った。
>「どうも変な油だった」。加熱するとブクブクと泡が出る。ねっとりして、すり身や天ぷらがカラッと揚がらない。「おかしい」と話題になった。
>正江は近くの店で別の油を買い、混ぜて使った。結局、義父母を含め、家族で一升瓶3本分の油を消費した。

>その年の夏。家族と義父母の体に、大小さまざまな吹き出物ができた。正江は首やふくらはぎ、夫は背中、子どもたちは頭皮に強く症状が現れた。
>頭痛、腹痛、手足のしびれに襲われ血尿も。慌てて息子たちを病院に連れて行ったが、飲み薬と塗り薬を処方されただけだった。
>数カ月後、通っていた病院の医師が言った。「あなたたちはカネミライスオイルを食べていないか」。医師によると 「 毒 の 入 っ た 油 」
>が五島で出回っているという。言われるまま、役場で子どもと検診を受けたが原因は不明。症状に苦しみながら歳月が流れた。
>検診を5、6回受診した後の1975年、息子3人は「カネミ油症」と認定。油を食べて7年。正江はあの油が原因だったとようやく理解した。
>夫は漁が忙しく検診を受けていなかったが、弁当には頻繁にすり身揚げや天ぷらなどの揚げ物を入れていて、家族で最も多く油を食べているはず。
>「お父さんも受けたら」。検診を勧めると、夫は突然怒鳴った。「おまえがそがん油を買うけん悪か!」。普段は温厚な夫の怒りに正江は動揺した。
>「買った私が悪か。でも悪い油と知って食べさせたんじゃない。ごめんね、許して」。正江は畑で一人泣いた。
>毒入りの家庭料理を食べさせ続けた悔恨。妻として母として、気が狂いそうだった。