マタハラ被害にあった場合、各都道府県の労働局雇用均等室に窓口が設けられ、相談に応じてくれる。女性も退職勧奨をされた翌日、会社を休んでもらった夫に子どもを預け、雇用均等室を訪ねて相談をした。
解雇は免れたとしても、遵法意識の低い会社でこのまま働き続けることは難しいと判断した女性は、均等室のアドバイスを受け、退職の条件をまとめて会社側に伝えた。

しかし、会社側は一方的に、理由を明示しないまま4月に解雇することを伝えてきた。そこで、女性は労働局に紛争解決援助を依頼した。労働局は、労働者、特に出産や育児で弱い立場にある女性の味方であるはず。女性はそう信じていた。

「明らかに不当な解雇でしたので、労働局長による紛争解決援助という制度を使ったのですが、依頼を境に担当者が弱腰になってしまいました。
会社側はたった3カ月分の賃金を受け取って辞めろという内容を提案してきたのですが、これに歩み寄るように私に勧めたのです。これを担当者は『譲り合い』と表現していました。労働者の味方であるはずの労働局が、こういう表現を言ってきたことに深く傷つきました」

この「譲り合い」「歩み寄り」という言葉は、制度を説明するパンフレットにも堂々と載っている。本来、解雇自体が無効であることを、なぜ会社側に指摘しないのかと女性は担当者に訊ねた。
「解雇理由はないが、無効とまでは判断できない」「退職にともなう請求額が高すぎる」というのが、返答だった。

「これ以上、紛争解決援助をしても、会社側に利することになると判断して、私から打ち切りを希望しました。
労働局が労働者の味方をしない、こんなお粗末な対応だとしたら、もう二度と子どもを産めないと思いました。味方をしてくれると思った人が味方をしてくれない状況が、一番つらかった。ものすごく不安になっていた時期でした」