《白井(佳夫) パゾリーニはお好きですか。
黒澤 好きですよ。だんだん難解になってきたけれどもね。
山田(宏一) どの辺がお好きなんですか。
黒澤 ぼくはやっぱり一番好きなのは『奇跡の丘』〔一九六四年〕かな。その後は、変った
ことをしなければいけない、という風になっちゃった気がするね。どうも、そういう変な風潮が
世界全体にあるね。そうじゃなくて、もっとわかりやすくて、ちゃんとしたことをいえて、いいん
だと思うんだ。あまりにも、みんな異様なことをすることによって自己主張しようとする傾向
が、映画だけじゃなくて一般に、出てきている。これはぼくは本道じゃないと思う。自然に
異様なものが当然生まれてくる場合もありますがね。そうじゃなくて、無理をして、わからな
く、不可解にしているような感じがしますね。》


大系黒澤明第2巻518頁
どですかでん公開時の座談会より
(初出「キネマ旬報』一九七〇年九月下旬号)