【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】
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宮田愛萌さんのブログや「ひらがな推し」やでネタにされている架空空間「スナック眞緒」を舞台とした小説のスレです。
なお、「ひらがな推し」や宮田ブログでの「スナック真緒」での井口真緒さんと宮田愛萌さんはひらがなメンバーとは別人格という設定ですが、
ここではひらがなメンバーであるのかないのかというのは曖昧にします。
タイトルと冒頭と末尾の文は、宮田愛萌さんがブログで書いているのをテンプレとして使いました。
原案や参照にしたものがある場合には、その小説が完了したとき必ず明記します。 スナック眞緒物語#8(その1)
どうしてこんなことになっちゃったんだろう?と宮田愛萌は深いため息をついた。
ブラジル行きの飛行機の中に愛萌はいる。
エチオピア航空の成田発サンパウロ着の便で、往復で8万円以内に収まる格安料金だが、学生の愛萌には手痛い出費である。 途中の空港には香港とアジスアペバの2回寄るが、香港では乗降客を待つ間に待機するだけなので、実際の乗り換えはアジスアペバだけである。
東京では急に寒くなったため分厚いコートを着ていたが、アジスアペバに到着して、
東京での出来事の煩わしさから逃れるように、それを脱ぐ。 乗り換えの機内の席についたからも愛萌は雑念に捕らわれて心ここにあらずである。
「すみません、窓際の席なので通してもらえますか」と外国人の若い女性から流暢な日本語で呼びかけられる。
愛萌はあわてて席を立ち、その女性を通す。
ブラジルくんだりまで行かなければならなくなった原因を愛萌は振り返る。(続く) スナック眞緒物語#8(その2)
その2日前のことである。スナック眞緒の中で大嫌いなイケオヤに呼び止められた。
「おい、愛萌、俺にフォロワーが1万人もいるはずないと前に言っていたよな。
もし、1万人以上いたら、その侮辱した責任をどう取るつもりなんだ?」 イケオヤに関わるのは最小限にしたくて、早く話を終わらせたかったので、安直に愛萌は返事をしてしまった。
「もしそれが本当なら、何だってしますよ」
「よし!俺の姪っ子であるということを他の客の前で宣言しろ!」
「ちょっと待ってくださいよ、そんなのできるわけがないじゃないですか」 「『何だってします』というのは嘘か。平気で嘘つくんだな。これからお前のことを嘘つきと呼ぶ」
イケオヤの挑発に冷静さを失い、どうせ1万人もいるわけがないと愛萌はタカをくくってしまった。 「ええ、いいですよ。でも、それがツイッターとかインスタとかの名前のしれたSNSでなおかつ真正なものであることが前提ですよ」
ニヤリとしたイケオヤはスマホの画面を愛萌の目の前に差し出した。(続く) スナック眞緒物語#8(その3)
それを見た愛萌に戦慄が走る。
え!なぜなの?たしかにインスタのフォロワー数が2.4万人となっている?
「どうだ!参ったか?これから、お前は俺の公式姪っ子だからな!」
「ちょっと待ってくださいよ。不正がない限りという条件だったんですよ」 「失礼な奴だな。このスマホは、正真正銘、俺のものだ。そして、このイケオヤ様のフォロワーというのが目に入らぬか!」
腰が抜けるようなショックを愛萌は覚えたが、何とか気を持ち直して言葉を発した。
「少しの間、そのスマホ、貸してもらえますか?手に取って確かめてみないと判断がつきません」 「ああ、いいだろう。ションベンしてくるから、その間、好きなだけ見てろ!」
イケオヤは意気揚々とスナックの奥にあるトイレに向かった。
イケオヤの手垢や汗のついたスマホを触りたくはなかったが、このさい仕方ないとして、イケオヤのスマホを愛萌は手に取った。(続く) スナック眞緒物語#8(その4)
愛萌はフォロワーを見たが、なぜか外国人が多いが、どうも不正はなさそうだ。
以前にイケオヤと口喧嘩をした慶応ボーイは離れた席でその様子を見ていたが、
近くにやって来て、「貸して」と言って、愛萌からイケオヤのスマホを取り上げ、その画面を自分のスマホで撮影する。 「ちょっと!何してるんですか!」と愛萌は注意する。
「あいつから『姪っ子』と呼ばれるようになってもいいんっスか?」
そう言いながら慶応ボーイはイケオヤのスマホの画面を右手で操作しながら、左手で自分のスマホで撮影する作業を続ける。
どうしていいかが分からず、しばし、愛萌はその様子を見守る。 イケオヤが戻って来たのを察知して、慶応ボーイはイケオヤのスマホを愛萌に戻し、すばやく自分のスマホをポケットに入れる。
「おや?お前は、俺の強さの前に尻尾を巻いて逃げていったいつぞやの奴か。また泣かされに来たのか?」とイケオヤが言う。 「めでたい人っスね。黙殺されたことを自分が強いと思い込んでいるとは」と慶応ボーイは返す。
「言い争うのはやめてください」と愛萌は二人に注意する。(続く) スナック眞緒物語#8(その5)
「おお、まったく優しいね、わが姪っ子の愛萌は。俺からこいつがズタボロにやられるのを憐れんでいるだな。
可愛いわが姪っ子のためだ、今日のところは見逃してあげよう」
「わが姪っ子」と聞いて、愛萌は全身に虫唾が走る。 「フォロー数が真正なものであると確定するまでは『姪っ子』と呼ぶのはやめてください!」
「で、俺のフォロー数が不正なものであるという証拠は見つかったのか?」
「いえ、まだです」
「いつ見つける?まさか1年待てとか言うんじゃないだろうな」 「1週間の猶予をください。不正がないかどうかの判断をします」
「おお、勝気だね、わが姪っ子の愛萌は。可愛い、可愛い姪っ子のためだ、1週間くらいは待ってあげよう」
「1週間じゃ無理っスよ、せめて1か月はないと」と慶応ボーイがあわてて愛萌に耳打ちする。 「おい、お前、俺の姪っ子に気安く近寄るな。それと愛萌をオカズにしてオナニーすることは許さんからな」
下品な物言いに愛萌が動揺していると、イケオヤは自分のスマホを愛萌から奪い取った。
1か月に期間を延長してほしいと愛萌は申し入れしようとしたが、察知したイケオヤは急いで店を出て行ってしまった。(続く) スナック眞緒物語#8(その6)
「期間を『1週間』に確定させるため、急いで店を出て行ったんだ。小賢しい奴ッス」と吐き捨てるように慶応ボーイが言う。
「フォロワー数の不正ということで何か事情を知っているようですね。教えてもらえませんか?」と愛萌は尋ねる。 「あの2万4千人というのはおそらく金でフォロワーを買ったんっスよ」
「え?どういうことなんですか?」
「ツイッターでもインスタでもフォロワーを売っている会社があるんっスよ」 「え!?そんなことがまかり通っているの?そのフォロワーの売り買いというのはどういうことなのかを詳しく聞かせてください」
「いわゆる水増しインフルエンサーというやつっス。
SNSフォロワー販売業者というのがいて、フォロワー1万人を1万円くらいで販売しているんっスよ」 「そんなのがあるんだ。誰が何のためにそんなものを利用するんですか?
イケオヤ氏みたいに見栄を張りたいだけの人を相手にするだけじゃそんな商売が成り立つ気がしない」(続く) スナック眞緒物語#8(その7)
「フォロワー数が多いと金になるんっスよ。
いわゆるインフルエンサーは、たとえば洋服のコーディネート写真をSNSに乗せているけど、
その一部はアパレルーカー報酬を貰って宣伝しているんっスよ」 「なるほど。インフルエンサーのお勧めは口コミ広告となるんですね。
フォロワーには身近な感じがするから、テレビCMよりも効果的な場合もありますね。
ただし、フォロワー数が多いほど広告主にアピールできるので、その水増しのための商売が成立するというわけですね」 「1万人程度のフォロワーでも広告主からの報酬は月20万くらい貰ってる人もいるらしいので、1万人で1万円というのは安いものっスよ」
「でも、いかさまですよ。嫌な社会ですよね」 「市場のイドラといえばいいんっスかね」
「イドラというのが先入観というのは知っていますが、市場のイドラって何なんですか?」 「世間に流通している意見がイドラとなって人間を盲目にするということっスね。
A5牛肉を闇雲にありがたがる人の話を愛萌さんが以前話してたでしょ。それと同じような心性っス。
ベーコンが生きていた時代よりも今のインターネット時代のほうがその落とし穴にはまりやすいっスね」(続く) スナック眞緒物語#8(その8)
「インターネット時代の落とし穴か。今の文脈とは違うけど、私もその罠に嵌まったみたいですね」と愛萌はため息をつく。
「不正を暴きゃいいんっスよ?」
「でも、どうやって?」 「先ほどあいつのスマホのフォロワーのプロフィールをできる限り画像に収めたし、
奴のインスタからも直に調べることはできるっス」
「協力してもらえますか?」
「もちろん。はなからそのつもりっス」 「ありがとうございます。
『姪っ子」と呼ばれるのがたとえこのスナックの中だけのことだとしても、
あんな人からそう呼ばれるというのは、私、一生、物笑いの種になりますからね」
「ただ、一週間っスよね。時間が短いっス。 そういうのが詳しい人間が知り合いに何人かいますし、俺自身も調べてみるっス」
そう言って慶応ボーイは自分のいた席に戻り、数人に電話した後、スマホを操作し始めた。(続く) スナック眞緒物語#8(その9)
2時間ほどして、調べ終えた慶応ボーイが愛萌に話しかける。
「公開アカウントから電話をかけたら殆どはつながらず、架空アカウントが多いみたいっスね。
架空であるというのを反論の余地がなく証明するのは難しいっスね」 「いわゆる悪魔の証明ですね。ああ、私、どうしたらいいんだろう?」
「実在のアカウントも二人ほど見つかったッス。ただ・・・」
「『ただ』何なんですか?」 「二人ともブラジルのサンパウロ在住ッスね。ラウラという女性とミゲウという男性なんっスけど。
フォローしていないという証言は電話からはとれるかもしれません」
「う〜ん、証拠としてはちょっと弱いなあ。そのお二人の住所は分かりますか?」 「はい、語学が達者な知り合いがすでに調べてくれているッス。でも、まさか・・・」
「ええ、行ってきますとも。ブラジルだろうが、どこだろうが」
「金も時間もかかるし、知らない土地にいきなり行くというのは危険っスよ」 「あんな人から『姪っ子』と呼ばれる以上の危険はありません」
愛萌はその翌日にブラジル行きのLCCを手配し、その翌々日には機内にいるという次第である。(続く) スナック眞緒物語#8(その10)
あわただしく事を進めたので、判明している二人とも愛萌自身はまだ連絡を取っていない。
ポルトガル語は全く話せないし、英語もそれほど自信ない。
その尋常ではない愛萌の落ち着きのなさは傍目から見ても分かる。 席の隣の先ほどの外国人女性が話しかけてきた。
「何か心配ごとがおありですか?」
予期せぬ呼びかけに愛萌は応答する。
「ブラジルの方ですか?日本語お上手ですね」 「ええ、留学した後に働いているので、もう10年以上は日本に居住しています」
「あのう、ブラジルの公用語はポルトガル語だというのは知っていますが、サンパウロなんかでは英語も通じると聞いていたのですが」 「ある程度の教養のある人なら、ポルトガル語も英語も話せますね。
あなたみたいに育ちのよさそうなお嬢さんが会う相手ならたぶん英語は話せますよ」
慶応ボーイが下調べしてくれた場所が目的地だということを愛萌は告げた。(続く) スナック眞緒物語#8(その11)
「え!?そこって治安が最悪な貧民窟ですよ。
日本人というだけで狙われやすいのに、あなたみたいに若くて綺麗な女性が一人で立ち入ったら危険ですよ」
「ああ、どうしよう」と嘆いた後に、愛萌はその女性に経緯を説明した。 「日本人の方々から本当に親切にされ助けられてきました。
そのお返しをしたいと思っていました。よかったら、お手伝いします」
信じていいものかどうかと一瞬ためらったが、その女性の人となりを判断して愛萌は覚悟を決めた。 「あの、コミッションはおいくらくらいになりますか?」
「恩返しのためにお手伝いしたいと申し上げたんですよ。お金をいただいたら。そうならないじゃないですか」とその女性は微笑む。
「ありがとうございます」
「私の名前はソフィアと言います」 「ギリシャ語ではたしか『知性』という意味でしたね」
「語源はそうですね。ただし、Sophiaからpを抜かしてSofiaとすることがブラジルでは多いんですよ。私の名前もそちらのほうです」
「私は宮田愛萌と言います。よろしくお願いします」(続く) スナック眞緒物語#8(その12)
現地に着くと、立ち並んでいるボロ家を見て愛萌は不安になった。
出合う現地の人間は不信の眼を自分に向けているかのように思えた。
そういう人たちにソフィアが尋ねて、ラウラの家を探しあてた。 ちょうど帰宅した女性がいて、それがラウラだった。
ソフィアから話しかけられて。ラウラは二人を中に通した。
窓ガラスは一部の部屋にしかなく、ラウラの部屋は昼間なのに暗かった。 愛萌から聞いていた情報に基づいてソフィアは尋ね、その通訳で愛萌は状況が呑み込めた。
ラウラは夜間学校に通う16歳で、母親が1本30円足らずのアイスをつくって生計を立てていて、そのアイスの宣伝でインスタのアカウントをつくったそうだ。 「なんとか貧困から抜け出そうとする思いからだったよ」とラウラの口調を真似てソフィアが通訳する。
イケオヤの名前を告げてフォローしたかどうかを愛萌は尋ねる。 「何が起きているのか、正直、分かりません。そんな人のアカウントの覚えはないわ」
日本での水増しインフルエンサーの実態を愛萌は説明する。 「間違っているわ、そんなこと」
「同じ日本人として恥ずかしいです」と愛萌は謝罪して、ラウラとは別れた。(続く) スナック眞緒物語#8(その13)
次に愛萌たちは海沿いの街に移動し、ミゲウが働く理容店に辿り着いた。
理容師ということで華奢な男を愛萌は予想していたが、豈図らんやがっちりした大男で、とても怖そうだ。 愛萌はおそるおそる尋ねる。
「あなたはイケオヤという名前の人物のインスタをフォローしていますか?」
日本語が堪能なソフィアはその人物のキャラに合わせて、通訳してくれる。 「いや、そんな奴、知らないぜ」
「でも、その人物のインスタにはあなたがフォローしている形跡があるんですよ」
「IKEOYA?」と言いながら、ミゲウは自分のスマホを確認する。 「おかしいな、たしかにフォローしているようだな」
「あなたが知らない間に、あなたのアカウントを勝手に使い、フォローさせてるようなんです」 「ふざけたヤローだ。勝手に俺のアカウントを使っているなんて許せねえ。俺には何の得もないんだろ!」
愛萌はまたも謝罪して、その理容店を後にした。(続く) スナック眞緒物語#8(その14)
日本に戻って来た愛萌はスナック眞緒に向かった。
眞緒ママからイケオヤが店に来ていることを電話で聞かされたからだ。 「ただいま、しばらくお店に出勤できなくてすみませんでした」と愛萌はママに謝る。
「いいのよ、いいのよ。どうせならついでに観光旅行してくればよかったのに」 「いえ、いえ。お金もないし、今回は目的を達成できたので、それでいいんです。
今回、ママに立て替えてもらった旅費は必ずお返しします」 「うんうん、いつでもいいわよ。それよりもこの数日間で、愛萌、精神的にすごく成長したみたいね。
元々できるコだったけど、何か芯が一本通ってきたというか」 「ありがとうございます」と嬉しそうに愛萌は言う。
愛萌がイケオヤと対決するという噂を聞きつけて、店には野次馬客が集まっている。(続く) スナック眞緒物語#8(その15)
野次馬の一人の美大生がやって来て、「愛萌チャン、大きくなったみたいだね」とカウンター越しに愛萌に話しかける。 こんな鈍い人でも私が成長したことが分かるんだと愛萌が上機嫌になっていると、美大生は愛萌の胸を見ながら続けて言う。
「CカップからDカップになったようだけど、やっぱりブラジル旅行は男と一緒だったの?」 「あなたは無神経なままで全然成長していませんね」と愛萌は怒る。
「甘いな、愛萌チャン。僕に成長を期待するなんて」
「進歩しようとする意欲もないんですか?」 「落ちぶれないだけまし。ほら、いつも酔っぱらって愛萌ちゃんに絡んでくるあのオヤジ、いまアル中で入院しているんだよ」
「最近、見かけないと思ったら、そうだったんですね」 「で、今日の愛萌チャンとイケオヤの対決を報告するようにあのオヤジに言われてんだけど、教えてもいい?」
「好きにしてください」と面倒くさそうにそっぽを向くと、その目の先にはイケオヤが映った。(続く) スナック眞緒物語#8(その16)
イケオヤが座るテーブル席に愛萌がやって来ると、スナック客は一斉に注視する。
「あなたのインスタのフォロワーはインチキですよ」と愛萌はいきなり切り出す。 「無礼な奴だ。証拠を見せろ。いろいろと動き回ったようだが、無駄足だったろ」とイケオヤは言い返す。
「いいえ、証拠ならちゃんとあります。あなたのフォロワーにブラジル人がいますよね」 「はあ?それがいったい何の証拠になるんだ?俺は世界を股にかける一流商社マンだぞ。ブラジル人がいたっておかしくはないだろ」
「お金を支払ってフォロワーを買っていますね」 「いったいどういうことなんだ」と野次馬たちの多くは事情が呑み込めないようだ。
水増しインフルエンサーのことをスナックの客全員に対して愛萌は説明する。 「そういう水増しインフルエンサーというのが世間では行われるとしても、俺がそういうことをやっているという証拠にはならん」とイケオヤはうそぶく。(続く) スナック眞緒物語#8(その17)
「あなたのインスタのフォロワーにラウラさんとミゲウさんという人がいますよね。
私はブラジルにまで行って、そのお二人にお話を聞いてきました」 スナックの客から歓声が上がる。
「すっげー行動力だな」
「いいぞ、愛萌チャン、かっけー」
愛萌は続ける。 「無断でアカウントを使われて、覚えもないのにフォローしていることになっていると仰っていましたよ。
お二人とも裕福ではなく、貧困から抜け出す手段としてインスタを始められていました」 愛萌はスナック客をアジる。
「そういう思いまでも搾取し、お金に換える業者がこの日本にはいるんですよ。 さらにそういう業者から購入して、水増しフォローでお金儲けしたり、その数を自慢したりする浅ましい人もいるんです。
みなさん、そういうのっては恥ずかしいことだと思いませんか?」 「おい、ふざけんな!そいつらが俺から無断でアカウントを使われと言った証拠はあるのか!」とイケオヤは喚く。(続く) スナック眞緒物語#8(その18)
スナックに備え付けのテレビモニターに自分のスマホを愛萌は接続する。
スナックの客全員は愛萌の一挙手一投足を見守っている。 「まずはミゲウさんの証言です」
テレビモニターに愛萌が撮影した動画が映される。本人の喋りの音声の後にソフィアが通訳した音声が少し遅れて流れる。
ミゲウの動画が再生される。 「おい、イケオヤとかいう奴、ふざけた真似するな。勝手に俺のアカウントを使っているなんてふてー野郎だ。
いずれ日本にまで行って、お前をぶっ飛ばしてやる!覚悟しておけ!」 客は次から次に言う。
「面白いことになってきたな」
「旅費をカンパして、この男に来てもらおう」
「一口乗った!」
イケオヤは蒼ざめる。(続く) スナック眞緒物語#8(その19)
「次にラウラさんの証言です。
レアルというのはブラジルの通貨単位で、1レアルは約25円ほどです」
ラウラの動画が再生される。 「私の家はシングルマザーで、母は1本、1レアルのアイスをつくって、生計を立てています。売り上げはよくて月に2000本ほどです」
客の一人が突っ込む。 「おい、おい、月の売り上げが5万円か、そこから、原材料費とかを差っ引くわけだから、
物価が安いにしても、そんなんで家族で暮らしていけるのか?」 ラウラの動画は再生されている。
「貧困から抜け出すように、母は無理して私を夜間高校に入れています。 昼間は私も働きづめで、朝市の終わった後で、食べるために野菜くずを拾って持って帰ったり、
瓶や缶などを集めて業者に売ったりして、生活費の足しにしています」 「貧しさから逃れようとするためインスタを始めた人を踏み台にしてまでフォローの数を自慢したいのか」
「イケオヤ、お前は人でなしだ」(続く) スナック眞緒物語#8(その20)
イケオヤは言い逃れようとする。
「たった二人がインチキだっただけで、他はそうとは限らんだろ」 愛萌は追いつめる。
「そのお二人に関してはインチキだったとお認めになるんですね。
調べた限りでは、架空アカウントでなかったのはそのお二人だけです」 「おい、他が架空アカウントなんてどうやったら分かるんだ」とイケオヤはあがく。
「電話番号もメアドも嘘なんですよ。架空としか考えられません。 そして、架空ではなかったお二人のフォローがインチキだったんですよ」
スナック客は愛萌に味方ずる。 「往生際の悪い奴だな」
「お行儀も悪い奴だけどな」
「もう諦めろ」
「どこまで面の皮の厚いんだか」 旗色が悪くなったイケオヤはトーンダウンするが、観念しない。 「ブラジル人のフォロワーはインチキだったと認めてやる。
だが、それは2万4千人のうちの半分だ。残りの半分は正真正銘の俺のフォロワーだ」(続く) スナック眞緒物語#8(その21)
離れた席で静観していた慶応ボーイが腰を上げ、話し始める。
「それについてはこちらから報告があります。 愛萌はさんがブラジルに行っている間、イケオヤさんのインスタを知り合いにも頼んで調べました」
「やっぱり他もインチキか?」と誰かが言う。 「連絡先が判明した日本人フォロワー50人全てに話を聞きました。すると共通点が浮かび上がってきました。 それは、海外の無料ソフトGramblrを使っているということです」
「なんじゃそりゃ?」と客の一人が尋ねる。 「パソコンでは加工しづらいインスタをスマホと同様にサクサクと動かすというソフトっス。 ただし、その利用規約の中に『Commit a follow to another user with your account』とあります。 要するに、『あなたのアカウントで他人をフォローする場合があります』ということっス」
「こわい世の中ですね」と愛萌はつぶやく。(続く) スナック眞緒物語#8(その22)
「イケオヤさんは二つのSNSフォロワー販売業者を利用したみたいッスね。 一つは、今言ったGramblrを提供している会社と結託した業者で、もう一つは、愛萌さんが調べたブラジル人のアカウントを勝手に使う業者です。 すべてを架空アカウントにすれば信頼性ゼロだから、一部に本物のアカウントを混ぜているのは両業者に共通しているようっスね。 慶応ボーイはスマホを取り出して、文字の書かれた画面を拡大表示して客に見せながら読み上げる。 そのすきを見て、イケオヤは店から抜け出すが、誰も気づかない。 「インスタグラムの運営元のフェイスブック社の見解がこうッス。 第三機関のサービスを使ってフォロワー増加を図るアカウントは今後、規制がかかる可能性がある』」 「その運営元に知らせて、イケオヤのインスタに規制かけろよ」と客の一人が言う。(続く) スナック眞緒物語#8(その23)
慶応ボーイは最後の詰めにとりかかる。 「愛萌さんは貧困にあえぐ人の思いまでも搾取する浅ましさを言っていましたが、それとは別に危険なこともあります。 中東のISはSNSを使って、資金集めや兵隊集めや宣伝をしています。 水増しフォロワーを媒介することで意図せずにそことつながって、そういう集団を後押ししている可能性もあるんっスよ」 慶応ボーイも他の客も一斉にイケオヤのほうに目を向けるが、既にいない。 「いつもなら、愚にもつかないような言い訳で粘り続けるが。今回ばかりは諦めたか」 「愛萌ちゃん、よかったな。あいつから姪っ子と呼ばれずにすんで」 愛萌は慶応ボーイに目礼し、「みなさん、今日はありがとうございました」と全客に言って、胸をなでおろす。(続く) スナック眞緒物語#8(その24)
うまくいったことを愛萌はソフィアに電話で知らせる。 「よかったわね、愛萌。でも、小言を言わせて。
無計画に知らない外国に行くことには慎重になるべきよ。 日本は安全だから、trial and error、つまり試行錯誤が美徳とされているけど、 最初の1回のtrialが取り返しのつかない事態を招くこともあるというのを肝に銘じておいて」 その言葉を噛みしめながらカウンターの奥に目をやると、見守ってくれていた眞緒ママと目が合う。 近くまで来て、愛萌は言う。
「ごめん、ママ、お客さんを一人減らしたかもしれない」 「いいのよ、いいのよ」とママは言う。
愛萌の後についてきた美大生が背後から語りかける。 「甘いな、愛萌ちゃん、あの程度であいつの心が折れると思う? たしかに今日は愛萌ちゃんの鋭い攻撃の刃であいつの分厚い面の皮を壊したけど、 脱皮した後のカニの甲羅は前よりも硬くなるように、面の皮を一段と分厚くするよ。 『愛萌は俺の実の娘だ』と姪から娘に昇格させた物言いをしながら戻ってくるよ」 「私には安らぐ日々はやって来ないんですか?」と愛萌は溜息をつく。 原案は、NHK総合「クローズアップ現代」の「追跡!ネット広告の闇 水増しインフルエンサー」。 ただし、アカウントを勝手に使われたブラジル人の名前は次のように変えた。 「クローズアップ現代」は放送されたものは書き起こししたものがすべてアップされている。 「追跡!ネット広告の闇 水増しインフルエンサー」の回はこちら↓ レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。