>>499
兎に角一度、事情を聴取する必要がある思った渡辺は、勾留の手続きを長沢に命じた。
 「暫くお泊まり頂いて、お話を聴いてみましょう」
 「憲兵司令部への報告は如何にしますか……?」
 「報告は要りません」
「勝手に動いて大丈夫でしょうか…?」
 「私が責任を持ちます」
 「司令部に引き渡してしまうと長岡徳夫の人権が保証されてしまうでしょう。我々だけだからこそ出来ることがあるのと思うの。苦痛や試練を知る機会に恵まれなかった人には、それ等を得られる場所や道具の提供が必要だと思うわ」
 「そう…ですよね…」
 渡辺の静かな返答には、太い力で圧する様な強い意志が感じられ、長沢の不安を打ち払った。
 長沢は踵を返し、一礼した後退室した。