1999年 10月25日(月)

わたしは失恋した。所詮わたしには、手の届かない存在だったのだ。
わたしがそんなことを考えているとふーちゃんが来た。
「ねる、なにしてんの?」
ふーちゃんは隣の席に座った。
「空見てたと。」
油断すると直ぐに方言が出る。
「なんかあった?」
まるで私のことなど何でも知ってるかのような目で見る。
わたしはゆっくりと記憶の糸を手繰り始めた。

昼休みの図書室。
窓側から3番目の席。そこがあの人の指定席だった。
うちの学校は図書室に人が来ることは少ない。だから指定席を取られることもない。
あの人はいつも難しそうな本を読んでいた。
あの人が不意に眼鏡を外す時。
わたしは堪らなくドキドキした。

「何の本を読んでると?」
わたしは勇気を出してその人に話しかけた。
あの人はわたしの方を見ず。黙って本を閉じ、図書室を出た。
わたしはただ、その場に立ち尽くした。
翌日。私はまた図書室に向かった。
私は図書室を見渡した。
あの席にはだれもいなかった。
ほぼ毎日来ていたのに。
私の恋は唐突に終わりを告げた。

「ん、それで終わり?」
「うん。」
「でもさー、たまたま休みってこともあるじゃん。」
「ねるは避けられてると。」
言葉にすれば悲しみが余計増した。
「うーん。それはいつのこと?」
「昨日。」
「昨日?」
大きな声でふーちゃんはいった。
クラスの視線がふーちゃんに刺さる。
「しーっ!」
わたしは唇の前に人差し指を立てる。

「まだわかんないじゃん。」
「そうかな。」
「そうだよ。ねるに話しかけられてびっくりしただけかもしれないし。」

今日、私はまた図書室に行くことにした。