数日後、僕は路地裏を歩いていた。
彼女に時計のお礼を言いにいくためだ。
いや違う。僕は彼女に想いを伝えたかった。

いつものように大通りから路地に入る。
僕は唖然とした。見えてくるはずの店がない。
駆け寄ると、そこには所々草の生えた、だだっ広い肌色の地面と
「立ち入り禁止」の看板があるだけだった。
なんで? どうして?
僕は何度も周りを確かめたけれど、ここに間違えなかった。
通りすがる人が、不審の目を僕に向けている。
「ここにあった骨董屋さん、どこにいったんですか!?」
自分でも狼狽しているのが分かった。
「何言ってんだ。ここはもう何年も空き地じゃないか」

僕は茫然とした。
そして思い出したように、胸のポケットから懐中時計を取りだした。
確かに彼女から貰った時計だ。
僕は急に不安になって、ゼンマイを巻いた。だけど針が動かない。
何度も何度もゼンマイを巻きなおした。
だけど二度と、時計は時を刻まなかった。

「ゼンマイ仕掛けの夢の中へようこそ」
ハスキーがかった声が遠くで聞こえた気がした。

出典
「ときめきアンティーク」 AKB48チームサプライズ
「ゼンマイ仕掛けの夢」 欅坂46ゆいちゃんず