銀座駅より数分、高級ブランドのショップが立ち並ぶ通りを歩くと、
とある建物にたどり着く。
その建物は博品館劇場といい、いままで数多くの劇団による公演がおこなわれている。
月曜日の真昼だというのにその博品館劇場の前には中年の男女が列をなしていた。当日券目当てである。
その公演は既にチケットが売り切れており残すのは僅かな当日券のみである。連日のようにこうして当日券を求めて並ぶ行列が発生する。
三百人ほどの収容人数の劇場には誰もいない。まだ開演二時間前である。
しかしながらすでにロビーには人が居る。その気配を背に黒いドレスを来た女性は透き通る声で自らのセリフを口にした。
するとそれに呼応するように白い口ひげを蓄えた男性がまた何やらセリフを
口にする。
どうやら直前まで練習をしているらしい。
その女性はそのセリフのあと、「すいませんありがとうございます。」と頭を下げた。これはセリフではない。
男性はいやいや、と手を振ってのち、
「じゃ、いくちゃん今日もよろしく」と微笑んだ。この男性の方が先輩らしい。いくちゃんとよばれた、黒く艶のある髪の女性は「よろしくお願いします」と返した。
どうやら間もなく舞台は始まるようだ。