『マヨネーズとって』

控えめに言っても理佐ちゃんは相当な美人な姉ちゃんだ。僕より五つも年上で、少し価値観が違う。
だから喧嘩になることもない。喧嘩は似たもの同士に起こりやすい。
そうかと言って仲良しでもない。話が噛み合わないことも多々ある。

夕食は一緒に食べることが多い。僕は部活で夜遅くに帰宅し、姉ちゃんはバイトで遅くなる。
どんなに遅くなっても、必ず家で食べる。健康に気を遣ってか、毎日サラダを食べている。
そして決まって僕に言う。
「マヨネーズとって」
僕は渡す。もちろんお礼なんか言われない。
「あのさ、お姉ちゃん」
「ごちそうさま」
僕が話しかけると、すぐにどこかへ行ってしまう。

普段はそんな感じだ。マヨネーズはバロメーター、ケチャップと違って安定している。
それでも、中身が無くなると空になる。空っぽになるのはきまって僕だ。

「どうしたの元気ないね」
姉ちゃんが僕に声をかけるのは、僕がほんとうに元気のない時だけだ。
「いや、明日試合でさ。緊張してるだけだよ」
「ウソばっかり。お姉ちゃん知ってるんだからね」
哀しそうに姉ちゃんは食器を持ち上げて行ってしまう。
姉ちゃんにウソを見透かされた日は眠れない。いつ鳴るか分からないアラームにおびえて朝を待つ。

「こんなとこで寝てんじゃねーよ」
気づけば姉ちゃんの部屋の前の廊下で寝ていた。自分でも意味がわからない。
「今日は試合じゃなかったの?」
「あ、そうだ。急がなきゃ」

姉ちゃんは「もう」って言いながらも、急いでエプロンをつけた。
いつの間にマスターしたのか、母さんと同じサラダが出てきた。
僕は言う。
「マヨネーズとって」
姉ちゃんは僕の皿に直接マヨネーズをかけた。ちょっと量が多い。

「帰ったら元気なかった理由聞かしてもらうからね」
なんて言ってるけど、僕はすっかり元気だ。


愛は食卓にある キューピー