霧の中の風景(その7)
その後のことだった。
変な新聞紙や変なグラフ雑誌がゆまの自宅に届くようになった。
理由を聞いたら、「素晴らしいものだから、読みなさい」と父親は言うだけだった。
また聞いたこともない人物の名前を挙げ。「××××先生はガンジーやキング牧師と同じくらい偉大な人だ」とか、
「××××先生は近々ノーベル平和賞をとられるお方だ」とか変なことを父親が言いだすようになった。
ある日の夜、「さあ、行こう」と父親から車に乗せられた。
嫌な予感はあったが、父親には逆らえなかった。
到着した先を知って、ゆまは脅えた。
数か月前に教師に無理やり連れていかれた商店だった。
嫌がってしゃがみこんだゆまを父親は手を引っ張り2階に連れて行った。
お題目を唱えさせられ、矢継ぎ早の質問を浴びせられ、ときには「そんなこともわからないのか」と恫喝された。
父親は何も口を挟まず、ただ傍観していた。
ゆまの精神は崩壊する一歩手前だったが、突然変化が起こり、心安らかになった。
あたかも凄まじい暴風雨が吹いていたが、急に凪になったかのようだった。(続く)