息子は三年間もの間、自分がココにした事を隠していたのだ。
「自分が足を踏ん付け、水をかけたせいでココは死んだ」
「ココの怪我を治そうとしたのに、ココを殺してしまった」
息子はその事をずっと私達に話す事ができず、辛い思いをしていたのだ。

突然告げられた事実に私はどんな言葉をかけてやればいいか分からなかった。
ココが死んだ原因が、本当にそこにあるのかも定かでないから、どう取り繕うべきか迷ってしまった。
「○○のせいじゃないよ」「ココは元々体が弱っていたんだから」などと無責任な言葉しか見つからなかった。
それでも息子は「僕が悪いんよ!!足なんか踏まんかったら血いっぱい出んかったのに!ひとごろし!ひとごろしや!」
息子はまた涙を流し、自分の頭を殴り始めた。

すると、息子の叫び声を聞きつけたのか、動物霊園の若い女性職員がやって来た。
息子の前にしゃがみ込んで「どうしたのかな?」と優しく話しかけた。
嗚咽で声が出せない息子に代わって私と夫が説明した。

話を終えると、「そんな辛い事があったんですか…」と少し驚いたように答える職員。
すると職員は、既に泣きやんでいた息子に向き直り、こう話しかけた。

「ずっと言えなくて辛かったね。○○君はココちゃんを助けてあげたくて、吠えられても頑張って血を洗ってあげたんだね。
 お姉さんが○○君と同じ5歳の時だったら、きっと怖くて何も出来なくて逃げちゃってたかもしれないなぁ。
 すごく偉いよ。勇気を出して自分なりに怪我を治そうとしてあげたんだもん」

職員は更に続けた。
「でもね、そうやって『自分のせいだ』って言い続けて泣いてたら、ココちゃんは生き返るかな?
 この先ずっと自分を責めていたら、生き返ると思う?」

「生き返んない…」と答える息子。

「そうだよね。じゃあ、もしもココちゃんが何処かでまた生まれ変わっていたらどうだろう?
 例えば、外で別のワンコとお散歩ですれ違っていて、そのワンコがココちゃんの生まれ変わりだったら、ココちゃんは泣いている○○君を見て嬉しいかな?」

「嬉しくないと思う…」と息子。

「きっとそうだよねぇ。だから、何処かのワンコがココちゃんの生まれ変わりかも知れないって思っていれば、○○君は色んな犬に優しくできる人になれると思うよ。
 君のお父さんやお母さんも、そんな優しい子でいてくれたら、とても喜ぶんじゃないかな?」

「うん…」

「じゃあもう自分を責めるのはやめて、今飼っているワンコや、色んな犬に優しくしてあげようよ。
 それでココちゃんが喜んでくれたら、こっちも凄く嬉しいよね?」

職員はニッコリ笑った。息子も少しニヤッと笑った。

私はその職員に何度もお礼を言った。
「過失の中に評価されるべき点があった事、これから先の生き方・考え方についてお子さんと何度も話し合って下さい。
 一度や二度ではクリアできない事ですが、とにかく根気よく話を続けてあげる事が大事なんです。
 とても優しいお子さんですね。あんな素敵なお子さんを育てられたお母さん、お父さんならきっと乗り越えられます。頑張って下さい」
と笑顔で返された。

パニック状態の子供に対しても、柔軟に適切な助言ができる職員さんには頭が下がる一方だった。
そして、我が子の知られざる行動、「ココを助けよう」という強い意志に泣きそうになった。
そんな強い心を持った彼に守られている今の飼い犬は、とても幸せだと思った。
ただ、職員さんに言われたように、自分を貶し過ぎない明るく前向きな子供に育ってくれたらと願っている。
もちろん願っているだけでは叶わないので、共に頑張って乗り越えていきたいと思います。