一昨日の事。

飼っていたペットの犬の命日だったので、家族でお墓参りに行った。
犬の名前は「ココ」。三年前に怪我による出血多量で旅立って行った。
ココの墓石へ向かう途中、突然8歳の息子が啜り泣き始めた。
ココとの思い出が蘇ったのだろうか。
しかし今は新しい犬が我が家にやって来たし、さすがに三年も経てばココとの名残も尽きているはず…。
それに、一番の親友との別れを悔やんでいると言うよりは、何かに対して怒りをぶつけるように悔し泣きしているように見えた。
気になって「どうしたの?」と聞いてみた。
息子は真っ赤な顔で呟いた。
「僕のせいでココが死んだんよ・・・・・ココ殺しちゃったんや僕!」

一瞬何を言っているのか分からなかった。
当然、息子がペットを殺したなんて俄に信じられるはずもない。
息子は泣きじゃくりながら一部始終を話してくれた。

ココは死ぬ一週間ほど前から、老化によって体が衰弱していた。
更に追い打ちをかけるように、錆びてボロボロになったココの犬小屋の鉄格子で左足を傷付けていたのだ。
ココが死ぬ前日の事だった。
様子を見に行った私は、初めてその傷を発見した。
急いで家に戻り、クローゼットから救急箱を出していたら、
近くにいた息子が「ココ怪我したん?僕治してくる!」と言った。
当時まだ5歳の息子には、消毒や止血、包帯を巻くといった工程なんてとてもできないと思っていた。
それでも譲らない息子は、救急箱から包帯だけを手に取って玄関へ向かった。
私が後を追おうとしたら、
「母ちゃんはええの!一人で助ける!」と言って、結局一人で犬小屋へ行ってしまった。

その後息子は、ココの怪我の箇所を探そうとココに近寄ろうとして、怯えていたココに吠えられたらしい。
その時にビックリした拍子で、誤って傷口を踏んづけてしまったのだ。
元々浅かった傷が酷くなり、ココの左足から夥しい量の血が流れ出て来た。
それを見た息子は、血に怯えながらも何とかココを助けてやろうと、
犬小屋から離れた場所の水道へ向かい、大きなバケツに水を汲んでココの血を洗い流そうとしたんだそうだ。
重いバケツを運んではココの足に水をかけ、また水道へ戻り水を汲む…何度も何度も、その工程を繰り返したと言うのだ。

しばらくして流血は治まった。
しかし、冷たい水は衰弱していたココの体を蝕んでいったのか、ココはどんどん元気がなくなっていった。
その様子を見ているうちに、息子は大きな罪悪感に襲われたらしい。
(僕があの時足を踏まなかったら…僕が冷たい水なんかかけなかったら…。
 このままココが死んだら僕のせいだ…)
どうする事もできず、弱っていくココを後にしたのだと言う。

そして翌朝、ココは既に息を引き取っていた。