「H3ロケットで宇宙輸送の姿を変える」 JAXA 岡田匡史さんが語る2足わらじの研究生活
https://www.jukushin.com/archives/60061


「国家プロジェクトにおける価値伝達を重視した技術マネジメント」という内容で研究をしていました。
ここの「価値伝達」という単語がキーワードです。
例えばロケットの設計は、JAXAではなくメーカーが行うんですよね。
例えばH3ロケットでは、将来的に打上げサービスを実施する三菱重工業にとって扱いやすいロケットとするために、
JAXAは三菱重工業にロケットの設計開発をゆだねています。
JAXAが決めたH3ロケットのコンセプトを元に、仕様の決定など基本的な部分から三菱重工業が作るんです。
その時に、多額の国の予算を投じることもあり、JAXAの意図に沿わないロケットができてしまっては困りますよね。
だからJAXAが本当に目指したいところの想いを三菱重工業の人たちにしっかり伝えて、
その範囲の中で三菱重工業自身が使いやすいロケットに設計いただくことが必要です。
ここで、もし見当違いなゆだね方をしてしまうと全く違うロケットが出来てしまいます。
そこで重要となるのがこの「価値伝達」なんです。
H3ロケットの価値は何か、その価値さえしっかり伝わっていれば、思い描いた通りのロケットが完成します。

研究内容である、「国家プロジェクトにおけるマネジメント」
そのなかでも一番役に立ったなと思うのは「プリンシパルエージェント」です。
発注者と受注者、両者は非対称の関係にあります。JAXAから見るとメーカーさんは仲間だと思っていますが、
メーカーさんはJAXAのことをうるさい人(笑)たちだと思っているんですよね。
これはアンケートを取ると如実にわかります。一見イコールパートナーに見えるし、
一緒にやりましょうねって感じなんですけれど、深掘りしていくとそういった関係性が見えてきます。
自分が見ている相手の姿と相手から見た自分は必ずしも同じではないんです。
そういう関係だということを心得てマネジメントしないと勘違いが起きてしまいます。

H3には「安心して乗ってもらえるロケット」「使いやすいロケット」
「世界中の人たちに利用してもらえるロケット」というコンセプトがあるんですけど、
一言に「使いやすい」といっても、コストだったり整備性だったりいろいろあるわけです。
例えば、H3ロケットは「ロケットを特別な乗り物にしたくない」という想いで作られているので、
宇宙専用の部品をあまり使っていません。H3ロケットの部品の90%が自動車用部品です。
特別な部品を極力使わないことが結果的にコストカットなどにつながっています。
更にはできるだけ物をシンプルに作って、運用性の向上を図っています。コンセプトの実現のために
このような工夫をしている点が外からも幾つか見つけることができるので、見てほしいですね。

H3ロケットは技術開発のロケットではなくて、事業開発のロケットである事を知ってほしいです。
H3ロケットは、単にロケットの技術を進歩させるために開発されたわけではないんです。
宇宙輸送の姿を変えることを目標に、ビジネスモデルを描き、それが形になったのがH3なんです。

コストを落とすためには打上げ機数を増やさないといけませんが、
そもそもロケットに乗るペイロードがいないことには、増やそうにも増やせません。
H3ロケットは、日本の宇宙計画に定められた人工衛星等のミッションを打上げることを
第一目的としていますが、それだけだと数が限られてしまうので、
機数を増やすにあたって足りない部分を海外のマーケットから取ってくる必要があります。
ですから、国際競争力の確保も重要な要素です。
H3はそういった事業ドリブンで開発されたロケットだと知ってほしいです。