<社説>原発への回帰 福島の教訓はどこへ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/198157

あの悲惨な原発事故をなかったことにしようというのか。
政府がこれまでの方針を翻し、原発の新増設や建て替え、さらには法定寿命の延長まで検討するとの考えを明らかにした。
脱炭素の潮流や、電力の安定供給を口実にした原発依存への回帰にほかならない。
東京電力福島第一原発事故の教訓を反故(ほご)にしてはならない。

将来を考えるなら、エネルギー輸入の必要がなく、潜在力の高い再生可能エネルギーを充実させる方がよほど現実的で、何より安全だろう。
蓄電技術の革新や送電網拡充による電力融通の強化といった面にこそ集中投資し、天候に左右されて供給が不安定だとされる弱点を克服していくべきだ。

原則四十年、特別な安全対策を施して六十年とする原発の法定寿命の延長方針に至っては、「老朽化」を「高経年化」と言い換え、不老長寿の夢を見た安全神話の復活と言うしかない。

「可能な限り原発依存度を低減する」という大方針は、あの福島の悲劇から導き出された重い教訓である。
ただ脱炭素、資源高への対応だというのでは、方針転換の十分な理由には到底なりえない。