1:00時に案内所に行くと、みすぼらしい中年の男が一番前の席に座っていたので、きっと彼だろうと
思い近づいたが、こちらに気が付いても特に動く様子もなかった。服装と年恰好は前もって連絡してあった。
丁度そのとき「石井さんですか?」と後から声をかけられた。角田はワインレッドのレザージャケットに細身の
パンツで田舎にしては随分と目立つ格好をしていた。
「角田さんですね。石井です。この度はお世話になります。」型どおりのあいさつをして、タクシーを探そうと
促したら、角田は自分の車で来ているので現地まで案内するという。ついていくと駅前の駐禁区域にハザード
をつけてBMWが止めてあった。
「角田さんはどんな仕事をされているんですか?」
「電子機器の組み立てとか半田付けを細々とやってるんですよ。」
「嘘でしょう。こんな高級車はわれわれサラリーマンに全く手が出ませんよ。そうとう羽振りがいいんですね。
半田付けでこんな高級車には乗れないでしょう。この車でも500万以上するんではないですか?」
「いや、その3倍くらいの値段です。半田付けでもすこし特殊な技術をもっていますから単価はかなり
いいんですよ。部品が特殊な形状をしていますから昔のように手で半田付けをやり直すということが
できないんですよ。だから開発時の修正依頼などでかなり儲かります。一人でやってますが、年商はいつも
2000万は超えています。」