ボクがプロ入りした当時の指揮官は、徹底した管理野球で名高い広岡達朗監督。前回は、広岡流の猛烈な練習についてお話ししました。何でボクを獲ったの…と思う毎日。練習だけではありません。高校出たてで食べ盛りのボクにとっては、毎日の食事も、まさに拷問のようなものでした。

 記憶されている方も多いでしょう。選手の体質改善のため、広岡監督が掲げたのが「玄米食」。選手寮の食卓に並ぶ茶碗には、玄米が盛られていました。母子家庭で、貧しかったボクの実家でも、おかずはなくてもご飯だけは白米。入寮最初の夜に口にした玄米のあのプチプチとし、のどに詰まるような食感には、違和感を覚えざるをえませんでした。

 翌朝、起きてみると、どうもおなかの具合が悪い。慣れないものを食べたせいか、下痢してしまったのです。ドラフト1位入団で注目されていたボクは報道陣に囲まれ、当然、玄米食について尋ねられます。「ちょっと、下痢気味ですね…」と答えたところ、大変なことに。

 次の日の新聞には『大久保、玄米食べて下痢!』と大見出しが躍っています。そうしたら、コーチに呼び出され、厳しい口調で言われました。「玄米食を批判するとは何だ。首脳陣批判で無制限の罰金だ。気をつけろ!」。広岡監督の指示はチーム内では絶対なのです。

 ボクだけでなく、若い選手が玄米で満足するはずもなく、結局、寮の食事はそこそこに、忍び足で近くの喫茶店に出かけて、焼きそばや生姜焼き定食をかき込んでいたというのが実情でした。