今回の研究によると、カピバラが桁違いに大きくなることができた秘密が、DNAの中に隠されていたという。
カピバラを含むテンジクネズミ小目の動物は皆、独自の型のインスリンを持っているのだ。

 インスリンには、血糖を調整する以外にも、細胞分裂を促す役割がある。
ヘレーラ=アルバレス氏らの研究によると、カピバラはインスリンを多く分泌するわけではない。何百万年もの自然選択を経て、
細胞分裂を促すインスリンの能力が高まった結果、体の大型化に拍車がかかり、体重50キロに及ぶ毛むくじゃらの巨大動物へと進化してきたという。

■がんになりにくいのはなぜ?
 とはいえ、体がこれほど大きくなることにはデメリットもある。
食物を多く要することのほか、カピバラは増大するがんのリスクと闘わなければならなかった。

 各細胞が悪性化する確率が同じだとすると、多くの細胞からなる動物のほうががんになる可能性が高いはずだ。が、実態はそうではない。
たとえば、ゾウはネズミの何千倍、何万倍も大きいが、がんになる確率は変わらない。
これは「ペトのパラドックス」として知られ、大型の動物はがんを予防するために様々なメカニズムを進化させてきたことがわかっている。

 たとえば、アジアゾウやアフリカゾウは、細胞分裂の際に念入りにDNAのコピーミスをチェックすることで、がんを引き起こす遺伝子変異の数を抑えている。
また、ホッキョククジラは、チェックなしで細胞が分裂するのを防ぐメカニズムを進化させている。
ヘレーラ=アルバレス氏の研究チームは、カピバラが全く異なる戦略を進化させてきたらしいことを発見した。

カピバラのゲノムが示していたのは、分裂が速すぎる細胞を見つけて破壊する免疫システムが、他の動物よりもはるかに優れているようだということだった。
つまり、カピバラは独自のがん免疫療法を進化させてきたのだ。
「とても驚きました。まさか免疫システムが関わっているとは思いませんでした」とヘレーラ=アルバレス氏は話す。

「彼らが発見したことは、他の動物で起こることとは相当違っているようです」と、米シカゴ大学の進化がん生物学者、ビンセント・リンチ氏は言う。
「我々が考えていたほど、がんを抑える方法を進化させることは難しくないのかもしれません」