なぜなら
がんの超初期の段階においては,Warburg効果様の代謝の変化はむしろ抗腫瘍的に機能することが示されている

細胞競合マウスモデルを用いた解析

 Warburg効果様の代謝の変化の制御によるがん変異細胞の排除が生体においても起こっているかどうか検証するため,細胞競合マウスモデルを構築した.そのために,Creに依存してRas遺伝子変異を誘導することができ
,かつ,GFPによりRas遺伝子変異をもつ細胞を追跡できるノックインマウスを樹立して,腸管上皮細胞に特異的にCreを発現するマウスと掛け合わせた.
このマウスにタモキシフェンを投与するとCreは核へと移行し,Ras遺伝子変異を誘導する.タモキシフェンによるCreの核への移行は確率論的に起こるため,
タモキシフェンの投与量を調節することによりRas遺伝子変異の誘導率を調整できることがこのマウスの重要な特性である.
すなわち,低濃度のタモキシフェンを投与した場合には少数だけ腸管上皮にRas遺伝子変異をもつ細胞を発現させることができ,正常な細胞とがん変異細胞との細胞競合を観察できる.
この細胞競合マウスモデルの解析により,正常な細胞にかこまれたがん変異細胞のほとんどが腸管上皮層の管腔の側へと排除されることが明らかにされ,哺乳類の生体においても細胞競合によりがん変異細胞が体外に排除されることが世界ではじめて示された.