冬休み前の終業式の日、俺は当番だったので、部活終了の放送をし、チャリ置き場で
彼女のことを待っていた。
彼女は、今週の「お世話係」にされていたので、一緒に帰る間中、愚痴をこぼしていて、
今日もそうなるんだろうな…とかぼんやり考えていると、彼女が通用口から出てくる
のが見えた。

彼女はダッシュでチャリ置き場の近くまで来ると、何故か俺に背を向けて、セカセカと
チャリにカバンを積み、背を向けたまま
「ごめん、今日一緒に帰られへん」
と言った。

横顔に涙が光っているのを見て、どうしたんやと声をかけたが、彼女は無言で去ろう
とする。背を向けたまま。
ふっと臭いがした。嗅いだことのある臭いだ。
青臭いような、生臭いような…。

何の臭いか分かった瞬間、俺は走って彼女の前面に回り込んだ。
彼女の胸元の辺りから、斜めに、濃紺のセーラー服にべっとりと、信じられないくらい
大量の白い粘液が付着していた。
「これどうしたんや!」彼女は「池沼君が…」とだけ、絞りだすように言うと俺を振り切って
走り去ってしまった。

家に電話しても、押しかけてみても、親御さんが出て「今は誰とも話したくないみたい、
ごめんね」と言うばかり。
ジリジリしながら年が明け、学校が始まっても、彼女は来なかった。
「●●さんは転校しました」と、とてつもなくあっさり担任が告げた。
帰りに彼女の家に行ってみた。ピンポン押しても反応がない。
「●●さんなら引っ越ししたわよ? あなた娘さんのお友達?」
買い物袋を下げたおばさんが、そう言った。